【シリーズ】校長に聞く(第6回) 県立桐生高校 新井高広校長
県立桐生高校に2025年度から着任した新井高広校長は進学校としての新たな地平を目指していると言います。学校運営への思い、難関大学への挑戦、そして若者たちへのメッセージまで、率直に語っていただきました。
■地元に愛されている高校
――校長として初めて桐生高校に来たときの印象は、どのようなものでしたか?
「県内最大規模の歴史ある高校で、OB・OGも多く、学校組織としてのしっかりした基盤ができているという印象を受けました。地元に愛されている学校だなと感じましたし、校長がいなくても先生方が自発的に動く、そんな力のある学校だと思いました(笑)」
――桐生市内の中学生にとって、選ばれる学校にしたいというお話がありました。
「地元の子どもたちに『桐高で勉強したい』と思ってもらえるようにしたいですね。桐高から全国に羽ばたき、いったん外に出ても、再び桐生の街の活性化に貢献してくれるような人材を育てていきたいです」
【写真】インタビューに答える新井校長(桐生高校 校長室で)
■東大に行ける高校に 進学校としてさらに高みを目指す
――進学校としての現状と課題はどのように感じていますか?
「統合後、国公立大学への進学者は増加しており、良い傾向にはあります。ただ、旧帝大クラスの最難関大学の合格実績となると、まだ満足できるものではありません。『東大に行きたい』『京大に行きたい』と思う生徒にとって、桐高が夢をかなえる場所であってほしいと思っています」
――そのための具体的な取り組みとは?
「難関大への進学指導に手を入れていきたいと思っています。本校は実際、しばらく東大合格者を出していません。その0を1にするプロジェクトを立ち上げて現場の先生方と話し合いを進めている最中です。ただ、これは私個人の思いだけで実現できることではないので、まずは指導する先生たちとしっかり詰めて、時間をかけて取り組んでいかなければいけないことだと思っています。桐高には、医学部を含めた最難関の大学への進学指導を経験した先生と、若手の先生が熱心に指導を行っています。若手の先生は進学指導の経験は浅いけれど、若さは武器になりますし、ベテランのノウハウと若手のエネルギーを上手くかみ合わせていきたいですね」
――生徒の意識改革も必要ですね。
「まさにそこがカギです。現役で最難関大を目指すには、部活動を引退してからでは遅いんです。早期からの準備と意識の変化が必要です。FairWindという東大生でつくる学生団体があって、地方の高校生の東大進学を支援しようという活動をしています。東大を見学させてもらうだけではなく、現役の東大生と話をする機会も作ってもらえます。『どういう勉強をしたのか』など、リアルな話を聞くことによって、『東大って特別な大学ではないんだ』と高校生側の意識も変わるんですね。この団体のことを先生方に話したら、反応が良かったんです。だから、そういう外部のリソースも活用していければと考えています。東大に受かる子って特殊な勉強しているわけじゃないんですよね。授業をきちんと受けていて、疑問に感じたことをちゃんと突き詰めるという習慣ができている。そういう勉強をしているわけです。だからこそ、教える側も授業改善が必要になってきます」
【写真】Fair WindのHP
■「やってみよう」が視野を広げる
――教職を目指したきっかけを教えてください。
「大学では情報科学を専攻していて、数学に関わる仕事がしたいと思っていました。ただ家庭の事情で群馬に戻ることになり、そこで真っ先に浮かんだのが『高校の数学の先生』でした」
――数学は昔から得意だったのですか?
「いや、全然です(笑)。高校に入ってからですね。恩師のおかげです。できない自分でも気持ちが途切れないようにうまく導いてくれる先生だったんです。間違っていても叱責もされず『そういうこともあるよな』っていう感じで。すべて受け入れてくれる先生でした。一方的な講義ではなくて、生徒から飛んでくるいろんな質問をうまく切り返して答えてくれる素敵な先生でした」
――なるほど。恩師の影響が大きかったんですね。最後に、若者たちへのメッセージをお願いします。
「子どもたちへのメッセージというと、とかく『成長』という言葉が取り上げられがちですが、『成長』というのはあくまで結果の話であって、まずは『自分の視野を広げる経験をたくさん持ってほしい』と思っています。さまざまな環境に身をおくことで自然と視野は広がってきます。そして視野を広げていくためには、目の前の『機会』に対して『ノー』という姿勢をとらないことも重要だと思います。そこに飛び込んでいくことで、視野は広がるし、人間も大きくなります。今まで見えてなかったものが見えてきます。今のお子さんたちって、やる前に『これをするとどうなるんですか』っていう風に答えを求めたがる風潮があるように思います。そうではなくて、面白そうだからやってみようという感覚でいいと思うんですよね」
――その視点でいうと、いままで見てきた中で印象に残っている生徒のエピソードはありますか?
「中学生の頃からプログラミングが好きで、高校時代には自発的にコンテストに参加していた生徒がいました。東北大学に進学し、大学院生でありながら、ソフトウエア開発会社で実務経験を積み、顔認証の研究にも関わっていました。好きなことを突き詰めた結果、世界が広がっていった好例ですね。ちなみにその生徒、私が1年生の時に担任しましたが、数学が特別できたわけではないんです(笑)。むしろ注意したこともあります」
――今、数学が苦手な生徒にとっても勇気づけられる話ですね。
「本当にそう思います。だからこそ、いろいろな経験をしてほしい。視野を広げ、自分の可能性を信じて進んでほしいですね」
(聞き手=峯岸武司)
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