起業家・家入一真インタビュー「ひきこもりだったボクが10代に伝えたいこと」
「世界は広いから、なんとかなるし、大丈夫」。こう語るのは、福岡県で生まれ育ち、日本を代表する起業家の一人として知られる家入一真だ。数々のITサービスを立ち上げた家入の人生は波乱万丈そのものだ。だからこそ、いま将来に不安を抱えている中高生にとって力強いメッセージになるだろう。
「世界」は一日で暗転した
世界の暗転は突然だった。中1の頃、家入一真は仲の良かった友人とのけんかをきっかけに孤立し、教室で居場所を失った。昨日まで一緒にサッカーをしていた仲間が、翌日からは誰一人声をかけてくれない――。図書室にこもり一人で時間を過ごす日々。その急転直下の孤独に、彼は学校へ通えなくなっていった。
「10代の間ずっと、あの日さえなければと思っていました」。学校が世界のすべてだと感じていた少年にとって、排除されることは「世界から落ちる」感覚に等しかった。
「学校以外のコミュニティは知らなかったですし。そこからこぼれ落ちそうになったら、しがみつきますよね。しがみついた結果、心が折れてしまいました」。
しかし、自分の置かれている状況を親には相談できなかった。
「情けなかったり、惨めだったり、親に心配かけたくないって気持ちだったり…」と家入は当時の自らの心境をこう振り返る。

【写真】家入一真さん
〝ひきこもり〟の中の光
本人いわく、そんな状況下で地元の公立高校に「奇跡的」に合格。環境が変われば普通に学校生活が送れるのではないかという期待感を抱いたが、再び挫折した。
長い間、人と接することがなかったため、笑顔の作り方が分からなくなっていた。「笑顔の作り方を鏡で練習したりしてましたね」。結局、クラスの中で煙たがられる存在になり、高校にも通えなくなった。長い引きこもり生活のはじまりだった。
ただ、その閉ざされた時間にも光はあった。絵を描くこと、そしてパソコンだ。PCでプログラミングを独学し、ゲームや音楽を作り、パソコン通信で作品を発表すると、見知らぬ人から感想が返ってきた。「自分の声を聞いてくれる人がいる」。そのことは彼の励みであり、心の支えとなった。
山田かまちとの出会い

【写真】山田かまち(提供:山田かまち美術館)
引きこもり生活の中で、母親は少しでも外の空気に触れさせようと働きかけた。ほとんど興味を示さなかった家入が唯一心ひかれた個展があった。地元・福岡の百貨店で開催された「山田かまち」の個展だ。17歳で亡くなった山田かまちの作品は家入に衝撃を与えた。
「作品を大量に残して走り抜けるように生きた彼と、一方で、家にこもって、何もしていない自分を比べたときに、これじゃダメだと思いました」。
かまちの作品との出会いが契機になり、ぼんやりしていた絵の道に進みたいという気持ちが明確になった。
大学に進学するため大検(現・高卒認定)を取り、裕福ではなかった家計に負担をかけまいと新聞配達の奨学生をしながら、美術予備校に通った。
1年目、地元の大学の絵画コースに合格するが、どうしても東京芸大への憧れが捨てきれず、浪人を決めた。
「芸大志望している先輩も、3浪、4浪が当たり前で、そういった先輩見ていると、僕も別に焦らなくていいやみたいな感じでやっていましたね」。
ところが、3年目、家庭事情が急変する。父親の交通事故。命に関わるような大きな事故を機に家庭が一気に崩れていった。父親の借金が発覚し、両親の関係もギスギスし離婚。父親は自己破産を余儀なくされる。家入は進学を諦め、就職することになった。
「ずっと社会不適合な生き方してきたから、会社勤めって難しくて。職を転々としている自分にすごく絶望しましたね。もう自分でなんかやるしかないんだなって思ったときに、起業という道を選ぶことになりました」。
新聞配達の経験から社名は「Paperboy」。レンタルサーバーの「ロリポップ!」の誕生だった。時代の流れにうまく乗り、事業は急成長。29歳で当時、史上最年少の上場企業の社長になった。
声を上げられない人が声を上げられる仕組みをつくる。数多くの事業を立ち上げた家入が意識していることだ。安価で簡単に使えるレンタルサーバー、スマホだけで開けるネットショップ、挑戦を応援するクラウドファンディング――その根底には、居場所を失い、声を飲み込んできた自分自身の経験がある。
10代に伝えたいこと
今もしタイムマシンで当時の自分に会えるなら、家入はこう伝えるという。「世界は広いから、大丈夫だよ」。学校や家庭がすべてだと思い込んでしまいがちな10代。しかし、外の世界には、無数の人や価値観、居場所が広がっている。
「悩みは尽きないけど、それにとらわれて一歩も踏み出せなくなるのは、自分で自分の可能性を狭めていることでもあります。僕みたいに中卒で引きこもっていた人間でも、会社を立ち上げてやってこられました。いろんな大人、いろんな生き方があるから、飛び出してみれば悩みがちっぽけに思えることもあると思います」。
(文中敬称略)
取材・文=峯岸 武司
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家入 一真 Kazuma Ieiri
1978年福岡県生まれ。
2001年、レンタルサーバーサービス「ロリポップ!」を立ち上げ、GMOペパボ株式会社として成長。2008年、29歳で当時史上最年少の上場企業社長となる。その後も、ネットショップ作成サービス「BASE」やクラウドファンディング「CAMPFIRE」など、個人が表現や挑戦をしやすくなる仕組みを次々と生み出してきた。現在はスタートアップへの投資・支援も行いながら、「声を上げられない人が声を上げられる社会」をテーマに活動している。著書に『我が逃走』(新潮社)、『さよならインターネット』(中公新書ラクレ)など。
※この記事はタブロイド判「みんなの学校新聞 4号(2025年11月)」に掲載された記事を転載しています。
(編集部)
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