亡き息子の〝特別な〟母校 「キリナン」復活に感謝
3年前に閉校した県立桐生南高校が、地域交流拠点「KIRINAN BASE(キリナンベース)」(桐生市広沢町三丁目)として復活した姿を、熱い思いで見守る夫婦がいる。難病で亡くなった次男が愛した母校。今年3月に同施設で開かれたイベントにも、次男の写真を携えて訪れた。「息子や仲間が過ごした大切な学校を、新たな形で残してくれてうれしい」。4月24日は次男の命日。キリナン復活に尽力するたち人へ、夫婦は感謝とエールを送る。
3月23日に同施設で開かれた「桐南ホームカミングデー」。同校卒業生らが企画した同イベントに、藤生恵司さん(67)明美さん(68)夫婦=太田市藪塚町=の姿があった。
9年前に26歳で亡くなった次男の大輔さんの母校。2021年3月の閉校直前、大輔さんに報告しようと、遺影とともに夫婦で校内を一周した。校内に入るのはそれ以来だ。
例年なら桜が舞う時期に、朝から冷たい雪が降った。それが正午過ぎには一変し、晴れ上がって汗ばむ陽気に。一日で冬から春に季節が変わったような不思議な天候だった。
「南高にゆかりのある大先輩が母校の復活を祝って、天から降りて来てくれたんじゃないかな。そして息子も。そんなことを思って喜んでいました」と明美さんは振り返った。
【写真】藤生さんの自宅を訪れた友人がメッセージを書き残すノート。今も訪れる人は絶えない。
大輔さんに病が見つかったのは中3の夏。物が二重に見えるようになり、病院で精密検査を受けた。小脳の一部が脊髄側に落ち込む「キアリ奇形」という難病だった。
すぐに手術し、リハビリと受験勉強を両立して桐南に入学。高校時代は生徒会役員を3年間務め、2007年3月に卒業。専門学校を経て理学療法士の資格を取った。
再発したのは、理学療法士として都内の病院に就職し、1年近く経ったころ。13年5月の手術後に脳内出血で再手術となり、一時は昏睡状態で生死の境をさまよった。
驚異のリハビリを経て自力で歩けるようになるまでに回復。職場復帰を目指していたが、再び頭痛を訴えて頭を手術した直後の15年4月24日、静かに息を引き取った。
【写真】葬儀の際、多くの友人がメッセージを書き込んだ寄せ書き。両親にとっては宝物だ。
3人きょうだいの末っ子で、穏やかな性格の天然キャラ。学校でも就職先でも良い仲間に恵まれ、闘病中も見舞いに来る人が絶えなかった。死後9年経った今も、桐南時代の同級生を中心に多くの友人が自宅を訪れる。
「桐南時代の同級生は特別な存在」と語る藤生さん夫婦。「みんなの思い出が詰まった学校を残してくれた人たち、卒業生を迎えるイベントを企画してくれた人たちに感謝したい。こうした催しが今後も続くよう陰ながら願っています」と涙をぬぐいながら語った。
(小針 厚)