不登校の中3生の進路について「NEXTAGE SCHOOL」の髙澤代表と考える
「教育の世界はアップデートしなければいけない時期を迎えています」。
桐生市でオルタナティブスクール「NEXTAGE SCHOOL」を主宰する髙澤典義さんは、子どもたちとのかかわりの中で痛切にこう感じている。
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日本の情勢はここ30年で目まぐるしく変わってきている。日本型経営の代名詞ともいわれた「年功序列・終身雇用」は崩壊し、「偏差値の高い高校に行って、偏差値の高い大学に行けば、大企業に就職できる」という時代ではなくなってきている。自分から学歴を引いたら何も残らない人は淘汰され、「自分」という軸がしっかりしている人がこれからは必要とされてくる。「自分から学んでいかなければいけない時代に突入している中で、大切なのは生きるためのスキルや力ですよね」と髙澤さん。にもかかわらず、教育の現場には昔の評価基準や価値観が根強く残る。「親世代が学生だった時代の評価基準がまだ残っている中で、こちら側がそれに抗うこともできないし、その価値観を変えることもできない」と歯がゆさを感じる場面も少なくない。ただ、不登校の子の進路を考えるとき、親自身がいかにこの価値観の呪縛から離れることができるかがカギだという。
【写真】「NEXTAGE SCHOOL」を主宰する髙澤典義さん
不登校の中3生の進路は、主に通信制高校、定時制高校、全日制高校、専門学校、中卒(就職)といった道がある。その中で、一般的には通信制高校に進む子が多い。一方で、中学卒業後は全日制高校に進学するのを理想とする考えが地方ではまだまだ根強い。だからこそ「(親自身が)人と同じでなければいけないという価値観に縛られすぎると苦しくなる」と髙澤さんは話す。
「通信制高校というと地方ではまだまだ不登校の子が行く学校というイメージが強いですよね」と前置きした上で、都市部と地方で通信制高校の見方に温度差があることを指摘する。
「たとえば日本で一番生徒数を抱える通信制の高校にはオリンピック選手や東大合格者もいる。毎日2時間を通信の授業にあてて、残り時間は自由に使える。そう考えると、主体的に学ぶ意思がある子には最高の環境ですよね。そのことに気づき始めている層が都市部を中心に生まれ始めています」と髙澤さんは都市部では通信制高校のあり方に変化の兆しが生まれつつあることを感じている。
「(とりわけ田舎では)人と違った動きをすることをよしとしない風潮がまだ強いですが、その考えと距離を置くことで案外選択肢は広がります」とアドバイスする。その際、「大人の考えを押し付けず、その子の個性ややりたいことを尊重してあげる」姿勢を持つことが大切だという。
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髙澤さんはこれまで何人かの不登校経験のある子の進路指導をしてきた。
その中の一人は高校卒業資格のとれるアニメの専門的なスキルが学べる学校に進学した。
「親世代からすれば理解できないかもしれないが、アニメの専門的なスキルが身につけられて高卒の資格もとれる。好きなアニメに没頭できる上、将来はやりたいアニメの仕事につける可能性もあるわけです」。
フリースクールなどに通って高卒認定を取るという道もある。不登校で中学を卒業。その後、家業のアパレル関係の仕事を手伝う中で、もっとデザインの勉強をしたくなり、高卒認定を取って美大に行きたいという子の指導をしたこともあるそうだ。
親が「待つ」ことで子どもの心境にも変化が生まれる。だから「待ち」の構えも重要だ。「ただ、待つというのは放置することではありません。子ども自身は社会にどんな選択肢があるか知らないから、様子をみて親が子どもに選択肢を提案することも必要」と髙澤さんは話す。
全日制の公立高校に進学した教え子もいる。今は生き生きと高校生活を送っているという。もともとリーダーシップを発揮するようなタイプの子で、勉強も比較的できる子だった。普通に中学に通えていたが、中3の途中から不登校になった。不登校の理由はいじめや人間関係ではない。「学校というしくみに疑問を感じて行く気がしなくなったと本人は言っていましたね」(髙澤さん)。実際、不登校ではありながらも、定期テストや学校行事には参加していたそうだ。
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不登校からの進学。髙澤さんは「一言では言えないのが正直なところです」とその難しさを口にする。ただ、それは不登校だからという難しさではなく、「生徒の数だけ選択肢がある」からだ。子どもが最善の道を選択できるようにするためには親自身が従来の価値観からアップデートしなければならない。このことが何より難しいことなのかもしれない。
(編集部)