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公立高校入試の「デジタル併願制」導入──制度改革がもたらす公平性と課題 アンケート結果から❷

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公立高校入試の「デジタル併願制」導入──制度改革がもたらす公平性と課題 アンケート結果から❷

高校入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2025.05.05 
tags:デジタル併願制 単願制, デジタル併願制 高校入試, 文科省, 文部科学省, 高校入試 制度, 高校入試改革

 文部科学省とデジタル庁が導入の可能性について検討をはじめた「デジタル併願制」は、公立高校入試における受験機会の拡大や進学の効率化を目指す新たな制度だ。しかし、受験の仕組みが大きく変わることに対して、歓迎の声もあがる一方で、戸惑いや懸念の声も少なくない。実際に教育現場に関わる人々や保護者から、制度のメリットや起こりうるデメリットについてアンケート調査を行った。

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 みんなの学校新聞編集部では4月26日~5月4日の期間、「デジタル併願制」について、インターネットを通じたアンケート調査を行った。アンケートはみんなの学校新聞のメールマガジンに登録している教育関係者、LINE公式アカウントなどに登録している保護者に配信され、31件の回答が得られた。

 

アンケート結果から デジタル併願制 導入により想定されるメリットは?

【図】デジタル併願制のイメージ(毎日新聞 25年4月23日配信記事をもとに編集部で作成)

 

 デジタル併願制の最大の利点として挙げられるのが、受験生の進学機会の拡大である。これまで公立高校入試では「一発勝負」の色が濃く、不合格となれば私立高校への進学を余儀なくされる状況にあった。経済的に公立しか選択肢のない家庭では、不合格を懸念して志望校を下げたりするようなケースも見られた。

 しかし、デジタル併願制が導入されれば、第1志望が不合格でも第2希望などへの自動割り当てにより、「進学できない」という事態が避けられる。特に「家庭の事情で私立が選べない子どもが、少し上のレベルの学校に挑戦することができるようになる」という点を評価する声が多く見られた。

 さらに、公立高校における不合格者の私立流出を防ぎ、定員割れの学校に生徒が配分されやすくなることも期待されている。これにより、公立高校全体で生徒数のバランスが取りやすくなることにつながる。

 入試制度の公平性と透明性の向上も大きなメリットとされる。成績や内申など客観的な基準に基づいて合否が自動で判定されるため、「人為的なミスや恣意性が入り込む余地が少ない」との意見があった。進路指導の場でも、これまでのように誤って出願させてしまうといったヒューマンエラーを防げる点は、学校現場にとっても利点がある。

 この制度は受験生の心理的負担の軽減にもつながるとの声もある。「公立高に落ちた時のショックが大きく、立ち直れない子もいる」との指摘にあるように、不合格という一度の結果ですべてが決まってしまう現行制度には、多くのプレッシャーが伴っていた。複数校へのチャレンジが可能となることで、安心して挑戦しやすくなる。

 公立高校側にとっても利点は大きい。入試業務が効率化され、職員の負担が軽減されるだけでなく、学力上位層の生徒が安心してトップ校にチャレンジできることで、「公立トップ校のレベル維持がしやすくなる」という意見も寄せられた。さらに「高校入試が共通テストのような形式になることで、妥当な高校への進学がかない、公平な進学先が見つかりやすくなる」といった声もあった。

 加えて「今まで以上に悔いのない受験ができる」「モチベーションが上がる」「より子どもの能力に適した学習環境で学べる」といった意見もあった。

 こうした声を通じて浮かび上がるのは、デジタル併願制が単なる選抜手続きの変更にとどまらず、子どもたちの教育機会と進路のあり方を根本から見直す契機として捉えられているという点である。

 

アンケート結果から デジタル併願制 導入により想定されるデメリットは?

 デジタル併願制の導入に対しては、その公平性や効率性が注目される一方で、多くの懸念や課題も指摘されている。

 まず、制度の自動的な割り振りに対する不安は大きい。たとえ公立高校に合格できたとしても、第1志望ではない学校に自動的に振り分けられることに対して、「不本意入学」が増え、生徒のモチベーションや学校適応に悪影響を及ぼすのではないかという声がある。入学後に「その学校を本当に志願していたわけではない」生徒が多くなれば、学内でのトラブルや退学の増加も懸念される。また、「入学生間で学校への志望度に差が生まれる」ことで、学校全体の活力や一体感の低下にもつながる可能性がある。

 さらに、高校や生徒の序列化が一層進むのではないかとの指摘もある。点数や偏差値によって機械的に割り当てられる仕組みでは、「個々の高校の個性」や「特色ある教育」が無視される傾向が強まり、結果的に公立高校の画一化や没個性化を招きかねない。特に、これまで地域に根ざした教育を行ってきた中堅校や特色校は、序列化の波に飲まれて存在感を失ってしまうのではないかと危惧されている。

 また、受験制度の複雑化学校・保護者の負担増も無視できない。一人の受験者に対して複数の高校が判定を行うため、合否処理の手間が増大し、面接や作文などの評価が学校間で共有できるしくみを作らないと正当で公平な評価が行えないのではないかという懸念の声も上がった。「部活動の成果を点数化するのが難しく、部活動重視の選抜が難しくなる」といった声もあった。結果として、「学力重視の選抜へと偏り、多様な能力を評価する仕組みが弱まるおそれもある」という不安もぬぐいきれない。

 内申点の扱いに対する不安感も根強い。通知表の評価の「中学校間格差」をどう埋めるか。内申点を割り振り基準に使うとなれば「教員の裁量の差による不公平」や「中学校による格差」が生じる可能性も否定できない。

 加えて、「一発勝負の緊張感がなくなることにより、受験に向けて努力する意欲が削がれる」「第1志望を決断するという受験の意味が失われてしまう」といった声もあり、進路選択を通じた生徒の成長機会を失うことを危惧する意見も見られた。

 また、私立高校にとっては公立併願制の影響で入学者が減少し、「単願推薦」以外の選択肢がなくなるのではないかとの指摘もあった。制度の導入による私学経営難の拡大も現実的なリスクとして考えられる。公立高校への受験集中が進めば、私学の多様な教育機会や選択肢が失われるという見方もある。

 このように、デジタル併願制は進学機会の平等化という理想を掲げながらも、現場レベルでは制度運用の難しさや副作用への懸念が多数存在している。公平性や透明性、効率性といった理念の実現には、制度設計と現場支援の両面からの丁寧な議論が求められる。

 

(編集部)

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