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公立高校入試の「デジタル併願制」導入──制度改革がもたらす公平性と課題 アンケート結果から ❶

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公立高校入試の「デジタル併願制」導入──制度改革がもたらす公平性と課題 アンケート結果から ❶

高校入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2025.05.05 
tags:デジタル併願制 単願制, デジタル併願制 高校入試, 文科省, 文部科学省, 高校入試 制度, 高校入試改革

 文部科学省とデジタル庁が導入の可能性について検討をはじめた「デジタル併願制」は、公立高校入試における受験機会の拡大や進学の効率化を目指す新たな制度だ。しかし、受験の仕組みが大きく変わることに対して、歓迎の声もあがる一方で、戸惑いや懸念の声も少なくない。実際に教育現場に関わる人々や保護者から、制度のメリットや起こりうるデメリットについてアンケート調査を行った。

 

デジタル併願制とはなにか。

 文部科学省は公立高校入試制度の見直しに着手し、従来の「単願制」を廃止して「デジタル併願制」を導入する可能性の検討を始めた。毎日新聞の報道によると、石破茂首相は4月22日、デジタル行財政改革会議で、デジタル併願制を前提に「メリットや現場の課題を丁寧に考慮し、希望する自治体での事例創出の具体化を図ってほしい」と単願制の見直しに向けた対応を文科省とデジタル庁に指示したとされる。

 デジタル併願制は、受験生が複数の公立高校を希望順に志望できるというもので、成績に基づいて最適な進学先が独自のアルゴリズムで自動的に割り当てられるもの。今後、導入の可否に向けた話し合いが進むと見られている。

 公立高校入試では受験機会が実質的に1回に限られ、不合格となった場合は私立高校への進学を余儀なくされる。そのため、経済的な制約のある家庭では、確実に公立高校に合格できるよう志望校のランクを下げて受験するケースも見られた。デジタル併願制の導入により現行制度が抱える課題を解決できるのではないかと期待されている。

【図】デジタル併願制のイメージ(毎日新聞 25年4月23日配信記事をもとに編集部で作成)

 

アンケート結果から デジタル併願制 5割弱が賛成するも、学校序列化、愛校心の低下など懸念する声も

 この報道を受け、みんなの学校新聞編集部では4月26日~5月4日の期間、インターネットを通じたアンケート調査を行った。アンケートはみんなの学校新聞のメールマガジンに登録している教育関係者、LINE公式アカウントなどに登録している保護者に配信され、31件の回答が得られた。

 公立高校が「単願制」を廃止し、「デジタル併願制」になることについての賛否を問う質問に対して、制度の導入に「賛成」と回答した人が48.4%と約半数を占めた。

 賛成の意見として、制度の合理性や公平性を評価する声が目立った。50代の公立高校の教員(女性)は、現状の制度では、「どこに出願するかで人生が決まってしまうくらいの大きな精神的負担」を受験生が強いられていて「周囲の生徒の流れも見ながら合格を勝ち取るための駆け引き」もあり、「受験生側の負荷が大きい」と指摘。

デジタル併願制が導入されれば、「公立高校側にとってみても、一部の人気校の定員オーバーであふれた生徒が不合格で私立に流れるというのを食い止められる」と述べた。「これまでは公立と私立の併願しかできなかったが、公立同士の併願が認められれば、受験生にとっての選択肢が増える」(50代・男性・学習塾講師)といった、選択肢が広がる点を評価する声が多かった。40代の保護者(女性)は「第一志望の高校に挑戦できなかった自身の経験」を踏まえて、制度の導入を歓迎した。

 一方、反対意見としては、「入学先の自動的な割り当てに、違和感を強く感じる」(50代・女性・私立高校教員)「学力による学校の序列化が明確になる」(40代・男性)、「結局、学力のある者が希望高校を選択できるだけで不公平感が高まるだけだと思う」(50代・保護者)といった、本人の意思ではなく登録した志望校から成績などによって割り当てられる選抜の方式に疑問を持つ意見が多く見られた。その結果、入学後「強い愛校心を持てない生徒が増えそう」(30代・男性・公立高校教員)という指摘もあった。40代の私立高校教員(男性)は「群馬県は全国でも公立志向が強い県の一つ。授業料無償化が実施されたとしても、(制度の導入で)現在でも全入に近い公立高校への志望がさらに促進」されると予測。制度が私学経営に大きく影響するのではないかと危惧した。

 制度自体がまだ具体的ではないため、「どちらとも言えない」という声も32.2%に上った。50代の学習塾講師(男性)は、制度の導入で、生徒に高校選択のチャンスが広がることは歓迎しつつも、群馬県の公立高校は学校ごとに配点や基準が異なっており、「記述問題などの採点にバラつき」をどう解決するか課題も多いと指摘。「トップ高校はやはり難問を高い配点にすることは生徒の実力を見る上でも重要だ」と述べた。

 30代の私立高校教員(男性)も選択肢が増えることを評価する一方で、「私立の入学者が減少したり、受け皿があるからまあいいか、と考える受験生が出ないか不安」が残ると指摘した。

「中学生が各高校の特色を理解して、出願の際に複数校に対する志望順位を決定することの難しさを感じる」(40代・女性・私立高校教員)「公立高校としては志願者を拡大できる可能性もあるが、デメリットも考えられる」(30代・男性・公立高校教員)という意見もあった。

 

【つづく】

(編集部)

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