集中連載(2・終)「勉強は『紙』でするか? 『デジタル』でするか?」 群馬大 柴田教授に聞く #2
紙とデジタル、どちらで読むかで体験は大きく変わる――。群馬大学情報学部の柴田教授は、研究や実験を通して「紙には厚みや重みといった体感があり、読書や学習の理解を深める大切な要素になる」と語る。
■徹底した“デジタル読書”で感じたこと
「私の研究室、本が少ないでしょ?」。柴田教授は笑いながら書棚を指さした。実際、一般的な大学の研究室に比べて本棚は驚くほどすっきりしている。
「紙とデジタルの比較研究をしているのだから、徹底してデジタルを使おうと思い、自分の本をすべて裁断してデジタル化しました」と、国産メーカー製のA4サイズの電子ペーパー端末を手に取って見せてくれた。E-inkを採用した画面は、液晶と異なり印刷物に近い表示だ。

【写真】タブレットと書籍(本文とは関係ありません)(出典 写真AC)
デジタル読書を重ねる中で、柴田教授は「(デジタルでの読書は)どこを読んでいるのかという感覚が非常にあやふやになる」と感じたという。そのため、無意識にページ番号を頻繁に確認するようになった。
「今どのあたりを読んでいるか」という感覚は数値ではなく、本をめくった厚みで把握しているのではないかと推察する。デジタル時計とアナログ時計で時間を認識する感覚の違いにも似ていると話す。
「デジタル読書はクライマックスを感じにくい」とも指摘する。紙の本なら残りの厚みから自然と盛り上がりを感じられるが、電子書籍で「残り2%」と表示されても実感がわかないのだ。読書体験には厚みや重みといった“体感”が重要であり、それが本そのものの印象に結びついていることを柴田教授自身、実感したという。
また、講演準備の際、数冊の本を読む込むことがあった。「電子書籍リーダー」と「自身で裁断してデジタル化したもの」の2種類で読書したそうだ。すると、印象的な記述のあった書名や執筆者は思い出せないが、どちらの端末で読んだかの印象は残っていたというのだ。
「人は本を区別するとき、デバイスと結びつけているのかもしれません。紙の本の重さや大きさ、装丁も記憶の一部になっているのだと思います」と柴田教授は話す。
■人は読みの際、無意識に指を使う
マニュアルから答えを探すという実験も紙の読書の有用性を考える上で示唆に富んでいる。
84ページからなるビジネスマナーガイドを「紙で冊子にしたもの」「PC(リンク付きのPDF文書)」「PC(リンクなしのPDF文書)」「タブレット(リンクなしのPDF文書)」の4種類を使って実験した。文書には9章64節の詳細な目次を用意。そして、「ビジネスマナーガイドに書かれている項目が何ページにあるかを探すのにどれくらい時間を要するか」を計った。

【出典】柴田博仁・大村賢悟 答えを探す読みにおける紙の書籍と電子書籍の比較による
「まず目次をみて、3章にあるとわかるとそこに飛び、そこになければまた目次に戻りという動作をするのですが、圧倒的に紙が有利なんです」。紙を使った場合、実験に参加した全員が指をはさみながら探す作業をした。「この指を挟むという動作を人は無意識に行っていたのです」(柴田教授)
紙の読書では、指でページや文章に触れる回数がタブレットよりも格段に多い。「たとえば難しい文章を与えます。それで、文章に触らないで読んでくださいっていうと、パフォーマンスは落ちるんです。触って読むっていうのは非常に意義があるんですね」と柴田教授。
人が文章を読むというのは、パラパラめくったり、あっち行ったりこっち行ったり、なぞったり、ペンで書き込んだりという行為も含まれている。そして、「手を使う頻度が高くなれば高くなるほど、紙の良さが顕著に表れる」と柴田教授は話す。
◇
人は体の動きと連動させながら知識を習得する。「だから学習の時には目だけで覚えるのではなく、体使った方がいいと思います」と柴田教授はアドバイスする。
(終わり)
【メモ】
取材を終えて、デジタル端末、紙媒体ともに長所も短所もあわせ持っており、どちらか一辺倒に偏るのではなく、用途や目的に応じてしっかり使い分ける「リテラシー」を身につけることが必要だと感じた。ただ、どちらかと言えばデジタルが重宝されがちな社会的な風潮の中で、紙の持つ有用性をより自覚し、「二刀流」を目指すのが賢い向き合い方なのかもしれない。
■取材・峯岸武司
柴田 博仁
群馬大学情報学部教授。専門はインタラクションデザインと認知科学。秋田県出身。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。富士ゼロックスで研究主幹を務めた後、2020年より群馬大学社会情報学部(現・情報学部)教授。学会活動に加え、FM GUNMA審議委員や前橋Book FES実行委員など地域活動にも力を注ぐ。
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