【教育コラム】超進学校の意外な教育(NEXTAGE SCHOOL 髙澤 典義)
偏差値が高い学校として言わずと知れた開成中学・高等学校。ご存知の方も多いのではないでしょうか?
その学力最上位を誇る開成の校長先生がある取材で意外とも思われるお話をされていました。今後を見越したとても良い内容でしたので、どのようなお話をされていたのか、まずはご紹介させていただきたいと思います。
■学校行事(運動会、文化祭、修学旅行等)に全身全霊をかける
開成は、41年間にわたって東大合格者数で全国トップであるそうです(2022年4月時点)。そのような強みをもつ開成の本当の良さを校長先生は、”生徒の個性と自主性を重んじる校風にある”と考えているとのことです。
たとえば、運動会や文化祭、修学旅行に至るまで、学校行事は基本的に生徒たちが自主的に、自由に運営しているそうです。運動会では、中1から高3までが縦割りで8色の組に分かれ、各学年の団体競技を中心に行われるといいますが、競技指導や応援(応援歌の作曲、応援席の壁絵制作も含む)は高3が担当し、運動会準備委員会の実務(会場設営、競技用具の作成、衛生・救護など)は高2を中心に役割分担して大会を運営していくそうです。
運動会が終わった直後から、次の高3学年が各クラスで1年かけて侃々諤々(かんかんがくがく)と議論する姿は、校長先生が在学していた頃と少しも変わらないとのことです。このような校風が継承されていることを嬉しく思っており、また、こうした議論や活動が協調性やリーダーシップなどのソーシャルスキルを学ぶ、とても良い機会になっていると感じているそうです。
ちなみに、校長先生ご自身も高1の秋から高2の春まで修学旅行委員を務めたそうで、行き先は九州に決まっていたものの、1週間の宿泊先や旅程をすべて決定したとのことです。また、同じ時期に運動会準備委員会の議長も務め、上級生からの厳しい批判を浴びる経験もしたそうです。このような活動に責任を持って取り組み、試行錯誤する中で、仲間との絆を深め、互いの個性や才能が磨かれていったと語っていました。
【画像】写真ACより
■「家庭で家事を」開成の校長先生が生徒と親に言う理由
一方で、開成の生徒のみなさんはどうしても似た家庭環境の出身であり、同じような大学に進学していくことが多く、多様性が少ないという側面があるそうです。そこで、校長先生は生徒たちに対して、海外大学への直接進学や、大学進学後の海外留学を強く勧めているとのことです。
一歩海外に出ると、自分がいきなりマイノリティーになります。言語も文化もまったく異なる環境に身を置くことで、多様性とは何かを最もよく理解できるそうです。そのため、家庭でぜひやらせてほしいこととして、「家事」を挙げています。
海外で1人暮らしをする際には、家事はすべて自分で行わなければならず、家事は大人として必須のスキルです。まずは料理。海外では、誰も自分のことを知らないし、守ってくれる親もいない環境では、心身ともに健康でなければすぐに挫折してしまいがちです。掃除も同様で、清潔な空間を保つことで、気持ちの健全性が維持できます。家事を自分でするようになると、親の立場になってものを考えることができるようになるとも述べています。
また、家事全般は大人のスキルとして一朝一夕に身に付くものではないため、小学生のうちからどんどん手伝いをさせるべきだと考えておられます。よく言われることとして、料理や掃除は科学実験やプログラミング的思考を育む大事な体験です。結果を見通しながらプロセスを考え、次の手順のために優先すべきことを常に思考する必要があるからです。
家事に限らず、小学生時代にはいろいろな体験をしてほしいとも話されていました。まずは大好きなことを見つけ、興味のあることを一つでもいいから見つけてほしいと。
開成の生徒には多様な個性や才能がある子が多いものの、受験勉強だけをしてきた子の中には、のびのびと飛躍できないケースが少なくないそうです。「勉強はできるけど、ほかには何もない」という子は仲間づくりに苦労することもあるといいます。
そのため、小学生時代にはいろいろな物事に興味を持ってほしいと考えておられます。好奇心をもって何かを調べることは楽しいことですし、そうすると本を読んだり勉強したりすることも苦ではなくなるとのことです。趣味でも歴史でも自然現象でも、いろいろなことに興味を持ち、
自分なりの考えをもって、その考えを友人や親、教師にぶつけてほしいと述べています。
保護者の方々には、そんな子どもを応援してほしいと。たとえ受験期であっても、「今は勉強優先」ではなく、興味関心を最優先にしてやってほしいと話されていました。
■心で聞いてほしい
またの機会にご紹介させていただきたいと考えている方の一人である小学校を大きく改革したことで有名な大阪市立大空小学校の木村泰子元校長先生も、今回の開成中学・高等学校の校長先生も、お話しされていることに大きな共通点があります。
それは、
”きちんと未来を描いていること”
です。
子どもたちの未来はきっとこうなるであろう。それゆえ求められる力はこうで、そのためにはこうして、ああして…と言った具合に、きちんと近い将来も先の将来も見据えて教育を行おうとしているところです。教育の行く先、目指す先はそこにしか答えがないんですね。
それに対する両者のお答えは、『もっと、もっと勉強させなければ危うい』といったものではありません。
今回で言えば、”家事をさせる””いろいろな体験をしてほしい””小学生時代はいろいろな物事に興味を持ってほしい””学校行事に主体的に参加してほしい” そういった類いのものです。
教育の本質を考えている人たちは、一様にこのようなお話をされています。
”いい高校、いい大学に入るべくとにかく勉強させて偏差値を上げる”
こんな風に言っているのは、一部の学習塾や予備校、そしてこれまた一部の学校の先生くらいなものです。ところが、現状として大衆が信じているのは、後者です。これが厄介なところです。保護者がお子さんをどう導くかによってお子さんの考えはつくられていきます。
保護者の方が、”いろいろな体験をしてほしい” と思って導いていかねば、なかなか自ら体験の場に足を運んでいくことはできません。
”のびのびと飛躍する子”を私たちは育てるべきです。
いい大学を出たけれど、家事も人とのコミュニケーションも、思いやりの心ももっていないようでは、いい職業人にはなれず、ひいては幸せな人生を歩めません。
”とにかく勉強して偏差値を上げて、いい高校に出て、いい大学に入り、いい企業に就職すれば一生安泰”
この幻想を幻想だと理解するまで一体いつまでかかるのでしょうか? 識者の話を一度きちんと心で聞き、実際の世の中と照らし合わせて、子育てについてきちんと考える必要があると思います。過去の成功法則は、過去のものです。
”教育をアップデートしよう”
私が折に触れて話させていただいている言葉です。過去ではなく、お子さんの未来を見据えた現代版の子育てにシフトしませんか?
参考文献
PRESIDENT ONLINE(https://president.jp/articles/-/56350)
主宰 髙澤 典義
大学卒業後、18年にわたり公立小、中、特別支援学校において勤務。2015年から3年間在外教育施設(ソウル日本人学校)における勤務を経験。2021年教師を辞め、桐生市にNEXTAGE SCHOOLを開校。