集中連載(1)「勉強は『紙』でするか? 『デジタル』でするか?」 群馬大 柴田教授に聞く
紙が読みやすいのは「目」だけでなく「手」が関わっていた――。群馬大学の柴田博仁教授が行った一連の研究で、文章を読む際の手の役割や、複数文書を扱う際に紙がパソコンより速く正確であることが明らかになった。
教育現場でデジタル教科書の導入が検討されるなど、ICT化が加速しているが、改めて「紙」の学習の良さについて柴田教授に話を聞いた。
■紙が好まれる理由は“手”にあった
「文章は手で読む側面があるんです」。紙の操作性の良さをデジタルメディアで再現する研究に取り組む群馬大学情報学部の柴田博仁教授はこう語る。
目で見るだけなら、紙とデジタルでの読みのパフォーマンスに大きな差はないという。デジタル端末は「目が疲れる」とよく言われるが、それは主観的な感覚に過ぎず、実際のデータでは紙との差はほとんど見られない。ところが、デジタルに慣れた人に「どちらが読みやすいか」と尋ねると、多くが「紙が好き」と答える。

なぜ紙の方が好まれるのか。
「読むというと『目』に注目しがちですが、実は『手』が大きな役割を果たしていることが分かってきました」と柴田教授は説明する。
柴田教授が都内の私立大学で講師を務めていた頃の話。約300人の受講生の講義の受け方を観察したところ、文書を机にまっすぐ置いて読む学生はほとんどいなかった。
むしろ、集中している学生ほど用紙を斜めに傾けていたという。
この気づきを基に実験を行った結果、文書を5度傾けたときに読みのスピードが最も速くなることが判明。また、書くスピードも調べたところ、10度傾けたときに最も速くなることが分かった。
指でなぞったり文字を書いたりするとき、人は肘を支点に腕を円を描くように動かす。その運動に合わせるように文書を傾けると、自然と読み書きしやすくなるという。

【写真】書いている時の手の動きを説明する柴田博仁教授(群馬大 柴田研究室で)
「目にとって読みやすいのは真正面から下ろしたときの角度です。斜めに傾けることは、目だけで見れば、むしろ読みづらいはずです。一方で、(傾けると)手にとっては扱いやすい。そう考えると、文章は“手で読む”側面を持っているのではないでしょうか」と柴田教授は説明する。
■「複数文書の読み比べ」紙が優位に
柴田教授は「複数文書の相互参照読みの実験」も実施。用意したのは4枚の文書で、1枚にはテキスト、残り3枚には図を記載。その図から読み取れる情報とテキストの内容に矛盾があれば指摘する、という課題を与えた。テキストには意図的に矛盾点を入れ、実験は次の3条件で行われた。

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紙(作業スペースの制限なし)
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パソコン(27インチディスプレイ)
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紙(27インチディスプレイと同じ広さの机の上)
結果は、紙での作業が最も速く、27インチの広さの机での紙作業がそれに続いた。この2つの間に大きな差はなかったが、パソコンと紙では顕著な違いが表れた。紙はパソコンに比べ25.5%速く、エラー検出率も10.7%高かったという。柴田教授は「25%の差というのは、1時間の作業で15分の違いになる」と説明する。

【出典】柴田博仁・大村賢悟 文書の移動・配置における紙の効果、複数文書を用いた相互参照の読みにおける紙と電子メディアの比較
「紙は文書の移動や順序の変更がしやすく、操作性が高いんです。さらに、思考を妨げずに作業を進められる」(柴田教授)
目を使いながら別の作業や思考を並行するのは難しいが、手を使った作業であれば可能だという。
「例えば、手で餃子を作りながら家族と会話することはできますが、テレビを見ながらその内容と無関係な話題を展開するのは難しいでしょう」と、柴田教授は日常の例を挙げて説明した。
勉強という場面を考えた時、教科書や参考書、問題集、ノートなど「複数の書籍」を参照しながら進めることが多い。デジタルデバイスを使った学習よりも紙を使った学習の方が高いパフォーマンスが得られると言えそうだ。
(つづく)
柴田 博仁
群馬大学情報学部教授。専門はインタラクションデザインと認知科学。秋田県出身。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。富士ゼロックスで研究主幹を務めた後、2020年より群馬大学社会情報学部(現・情報学部)教授。学会活動に加え、FM GUNMA審議委員や前橋Book FES実行委員など地域活動にも力を注ぐ。
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