【私小説】Nの青春<第6章> その3
第5章
ホントのことを言ったら オリコウになれない。
ホントのことを言ったら あまりにも悲しい。
~ いまいずみあきら 唄:新谷のり子 ~
(その2を読む)
ところが教習所には夏休みの後半から通い始めたのが災いして、未履修の「必修科目」の内のいくつかが学校の授業時間と重なってしまった。もちろんNは学校の授業はもうどうでもよくなってしまっていたので、教習所の方を優先した。朝のホームルームには出席して、途中で学校を抜け出して教習所の授業を受けて、また学校に戻ってくるというスタイルだった。
そしてそれは四時間目の途中に学校に戻ってきた時だった。
自転車置き場から生徒用の昇降口に向かう途中で1階の生物室(授業中)の脇を通っていた時のことだ。それでもひょこひょこと申し訳なさそうに身を隠しながら移動しているNの頭の上の、開いた窓からH先生が突然声を掛けてきた。
「おいN、ちょっと用がある。昼休みに生物研究室に来てくれ。」
H先生は学年主任でもあり生徒指導の担当でもあった。そして授業中のH先生がどうやってNの接近を知り得たのか、それはいまだに謎のままである。
叱られるのを覚悟しながら、Nは生物研究室のドアを叩いた。
「ああ、Nか、よく来たな。用事とは他でもない、この行事のことだ」
それはG県が発足してから60周年の記念事業で、各高校の代表者(現役高校生)による『模擬県議会』のことだった。
「いまのK高でヒマなのはお前くらいなものだからな。K高の代表として参加してくれ。あ、それからお前には議長もやってもらうからな。よろしく頼む。」
確かにその当時のK高でヒマなのはNだけだったのだが、それにしてもよくもまあ“劣等生”のNに声を掛けたものだ。
(つづく)
※おことわり
次回は年明けからの再開になります。
プロフィール
丹羽塾長
<現職>
桐生進学教室 塾長
<経歴>
群馬県立桐生高等学校 卒業
早稲田大学第一文学部 卒業
全国フランチャイズ学習塾 講師
都内家庭教師派遣センター 講師
首都圏個人経営総合学習塾 講師
首都圏個人経営総合学習塾 主任
首都圏大手進学塾 学年主任
都内個人経営総合学習塾 専任講師