【私小説】Nの青春<第6章> その4
第5章
ホントのことを言ったら オリコウになれない。
ホントのことを言ったら あまりにも悲しい。
~ いまいずみあきら 唄:新谷のり子 ~
(その2を読む)
Nは“県議”としての職務である「一般質問」の原稿を書いた。この質問には現役の県の担当職員が「本番さながらに」真剣に答えてくれるというのだ。ここぞとばかりに普段心に溜まっていた疑問を率直に「質問状」にしたため、まずはその原稿をH先生に見てもらった。
H先生は一読すると原稿をNに返しながらこう言った。
「お前の言いたいことは良くわかる。でもな、納税者の要望に応えるのが行政の仕事だ。納税者の家の子がみなK高生のように学力的に優秀とは限らない。でも納税者の多くが大学進学も可能な普通科高校の設置を望むのなら、行政はそれに応えなければならないわけだ。この原稿はダメだ、書き直して来い」
「え、じゃあ、ウチの子はバカだけどM高に入れてくれと言われたら、そのように計らうのが行政ってことですか?!」
「まあな、そういうことになるかな」
「それにな、N、お前だって勉強できなくたってK高生でいられるだろう。それと似たようなもんだよな」
Nはぐうの音も出なかった。
「質問状」は骨抜き状態になって、むしろ「普通科高校新設賛成」の立場に書き替えられた。
だが答弁に立った県のお役人からはとても喜ばれた。「N県議のご指摘の通り、普通科高校の新設は急務でありまして、…」云々。お役人が喜んだのはやはり「オトナ」の事情で、議会の承認なしでは数十億円の予算を実行に移すことができないという「モラル」と『行動』の論理がここにも存在しているからだ。
それにこのイベントはG県の主催する記念的な行事であったため、議長を務めたNの写真はG県の月刊広報誌「グラフG」の表紙を飾り、Gテレからはインタビューも受けてそれが放送されたりもした。
後にも先にもこの時が、NがG県で一番の「オリコウさん」だった一時(ひととき)だ。
17歳になっていたNは一方でハチャメチャな行動を取りながらも、その一方では「オトナ」になり始めた自分自身の頭の中で<人生の地図>の青写真を1から描き直し始めていた。
(この章おわり)
プロフィール
丹羽塾長
<現職>
桐生進学教室 塾長
<経歴>
群馬県立桐生高等学校 卒業
早稲田大学第一文学部 卒業
全国フランチャイズ学習塾 講師
都内家庭教師派遣センター 講師
首都圏個人経営総合学習塾 講師
首都圏個人経営総合学習塾 主任
首都圏大手進学塾 学年主任
都内個人経営総合学習塾 専任講師