“全日も定時も、同じ仲間”――桐商に芽吹く独自の教育ビジョン「S.P.A.R.K.(スパーク)」の精神
桐生市立商業高校(星野亨校長)が今年度から掲げる教育ビジョン「S.P.A.R.K. for our well-being!」が、着実に学校現場に根付き始めている。全日制と定時制の生徒が互いに関心を持ち、声をかけ合う姿が見られるようになったという。新しいビジョンで生徒たちの意識に少しずつ変化が芽生えつつある。
■「全・定」の壁がなくなってきた
今年度から桐生市立商業高校では、独自の教育ビジョンを掲げ、全日制・定時制の生徒一人ひとりが自ら考え、行動し、社会に能動的に関わる力を育むための取り組みを積極的に進めている。
定時制・新生徒会役員の齊藤柚葉さん(2年)は、「S.P.A.R.K.(スパーク)が始まってから、全日制と定時制の垣根がなくなってきていると感じます」と話す。
「例えば自販機でジュースを買いに行ったときに、全日制の生徒が普通にあいさつしてくれたり、声をかけてくれたりするんです。以前はスルーされることも多かったので、壁がなくなってきているのかなと思います」
齊藤さん自身も全日制のインスタグラムをフォローし、活動に関心を持つようになったという。
星野校長は「全日制も定時制も同じ学校の仲間」というメッセージを日頃から伝えてきた。その思いは着実に生徒に届いている。
11月1日にALSOKぐんまアリーナで行われた春の高校バレー県予選(男子)決勝では、「特に呼びかけはしなかったのですが、定時制の生徒が自ら応援に行きたいと名乗りを上げてくれました」と校長は嬉しそうに話す。
■校長と生徒会との交流の場で理念を共有
教育ビジョンの理念を共有し浸透を図るため、校長は生徒会役員との交流の場を設けている。新役員体制が発足したのに合わせ、10月30日には全日制の生徒会新役員とランチミーティングを行い、11月5日には定時制の新役員と校長室で意見交換を行った。
理想は「全・定」同時開催だが、全日制は放課後に部活動、定時制は授業時間にあたるため、現状では難しい。「どうすれば一緒にできるか、生徒の側からの提案を待っています」と校長は話す。
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授業前の5日夕方。定時制との意見交換会では「先生と生徒は同僚。対等に話せる関係を目指したい」と校長が強調。「かつては“前例がないから無理”という言葉がよく聞かれましたが、今はむしろ新しいことに挑戦する時代。生徒も教員もお互いの立場で補い合いながら、より良い学校を一緒につくっていきたいよね」と語りかけた。
校長は「失敗を恐れず、『どう生かすか』が大切」と説き、前任校での非認知能力育成の事例を紹介。生徒が動き出すためのヒントを伝えた。
生徒会からは「定時制にもインスタグラムを活用した情報発信の場をつくってはどうか」という意見が出た。校長は「とてもいいアイデア。写りたくない生徒への配慮をしながら、できる形を考えよう」と応じた。
また、「お互い謎だから、全日制と定時制で質問交換のような場があってもいいかも」「全日制で文化祭をやっているが、定時制でもやってみたい」との声も上がった。校長は「行事の目的が“みんなの幸福(ウェルビーイング)”につながるなら大歓迎。みんなの発想をどんどん形にしてほしい」と背中を押した。


【写真(上下とも)】桐商定時制の新生徒会役員と星野校長の意見交換会(同校・校長室で)
■「S.P.A.R.K.」の取り組みに手ごたえ
「S.P.A.R.K.の取り組みで、生徒たちに確実に変化が表れています」。こう話すのは定時制の住吉信篤教頭。
同校では9月19日、体育館へのエアコン設置や洋式トイレの増設などを求める陳情書「桐生市立商業高校の教育環境改善に関する緊急要望」を市教委に提出。PTAに加え、有志生徒23人が参加し、定時制からも3人が加わった。「そのうちの一人が今回の生徒会選挙に立候補し、今回役員に選ばれました。もともとおとなしい子だったので驚きましたし、大きな成長を感じます」と住吉教頭は目を細める。
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学校の本質とは、校門をくぐり、生徒とすれ違った瞬間にこそ垣間見えるものだ。取材という整えられた場ではなく、日常の中にこそ、その学校の真の姿が映し出される。これは、長年の学校取材を通して感じてきたことでもある。
「あ、校長先生だ」「インスタ見てますよ」。廊下ですれ違った女子生徒が気さくに声をかけ、校長が笑顔で応じる――。そのさりげない一瞬のやり取りの中に、「S.P.A.R.K.」の精神が確かに根付き始めていることを実感した。
(編集部)
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