【私小説】Nの青春<第4章> その1
第4章
友達は要らない。 友達を作ると人間強度が下がるから。
Nはずっと孤独だった。(もしくは“孤独”を感じていた。)
とは言っても、決して自ら孤独を好んでいたわけではない。Nは相当な人見知りだが、決して人嫌いな性格ではない。ただただ「友達」と呼べるような、趣味や勉強や将来の夢などを共に語るような同レベルの同級生に出会えていなかっただけだ。
中学三年生のGW明けだったろうか、Nはクラスの班の男子生徒と一緒に割り当てられた「便所掃除」をしていた。正確に言うと、掃除をしていたのはNひとりだけで、残りの連中はいつものように掃除をサボってふざけ合っていた。
汚れと臭いが染み付いた便器を一生懸命にブラシで擦りながら、Nがしみじみと言った。
「お前らとはあと半年ちょっとの付き合いなんだよなぁ。」
それを聞いていたAがふざけている手を止めて応えてきた。
「え? なんで? オレたちずっとトモダチじゃないの?」
擦っていたブラシの手を止めながらNが言った。
「うーん、それはどうかな? だって卒業後の進路だって違うだろ? それぞれが違った環境の中に身を置いて、それでもずっと友達でいつづけるって、たぶん無理なんじゃないかって思うんだ。」
「そんなことねえよ。なぁ。」と、Aと絡んでいたBが“仲間”に同意を求めた。
「そうだよ、俺たちずっと友達だよ。」と別グループのCやD。
「いや、そう言うけどさ、オレたちは今、ただの同級生だろ?」と、N。
「なに急にそんなこと言って。俺たちトモダチじゃなかったのかよ。」
「だから、『同級生』だろう? 『友達』っていうのとはちょっと違うんじゃないのかな。」
「Nは頭が良いからさ、だからそんな難しいコトを考えるんだよ。同級生ってことはつまりは友達ってことだろ?」
「イヤ、全然ちがうよ。同級生は同級生、友達は友達。」
「じゃあさ、友達って言うんだったらさ、オレが普段どんなこと思ってるかって考えたコトある?」
「そんなんわかるワケないじゃん。俺らはみんなお前みたいに頭良くないし…。」
「だからさ、分かるかどうかじゃなくてさ、分かろうとしたことはあるかってことだよ。」
「もういいよ! 言ってること全然わかんねぇし。お前がトモダチじゃないって言うんだったらトモダチじゃなくっていいよ。俺らどうせバカだしさ、お前みたいに頭の良い奴らの考えてるコトなんか全然わかんねぇしさ。」
そう言って彼らは正々堂々と便所掃除当番の義務をすっぽかして教室へと戻って行き、残されたNはその後も一人で全部の便器をブラシで擦り続けた。
(つづく)
プロフィール
丹羽塾長
<現職>
桐生進学教室 塾長
<経歴>
群馬県立桐生高等学校 卒業
早稲田大学第一文学部 卒業
全国フランチャイズ学習塾 講師
都内家庭教師派遣センター 講師
首都圏個人経営総合学習塾 講師
首都圏個人経営総合学習塾 主任
首都圏大手進学塾 学年主任
都内個人経営総合学習塾 専任講師