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【私小説】Nの青春<第4章> その2

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【私小説】Nの青春<第4章> その2

文化

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2023.10.12 
tags:桐生進学教室, N君の青春

第4章

 友達は要らない。 友達を作ると人間強度が下がるから。

               ~  阿良々木 暦  ~

その1を読む)

 そんなことがあれやこれやとあって、K高に入学したのを機にNは「高校では絶対に友達を作らない。三年間は勉強に専念する」と心に決めたのだった。

 

 ところが入学後すぐに名誉ある(?)「総務委員」に任命されてしまったせいで、NはK高の『同級生』たちとも絡まなければならない立場になった。総務委員の相方のTはとにかく成績は抜群に良いのだが、場の空気を全く読まない奴だったのでクラスの中の決め事や先生たちとの交渉ごとのほとんど全部がNの仕事になった。

 

 当時のK高は6時間目が「自習」となった場合は、出席確認さえすれば、帰宅しても部活に出てもその後の各生徒の行動は自由であるという決まりがあった(もしかしたら裏メニューだったのかもしれない)。生徒だけではなく、その“恩恵”は先生たちにも与えられていた。つまり「退社時間」を早めても良いという決まりだった。授業が自習になることなど普通に考えたら(普通の学校ならば)そんなことはめったになく(ましてや6時間目が自習になることなどは本当に運の良い時だけなのだが)、なぜかK高の授業には「自習」の時間が多かった。特に月曜日の1時間目の英語の授業は先生がいるにも関わらずほぼほぼ「自習」だった。前日の飲み過ぎで二日酔いのため先生の体調が良くなかったからだ。英語のH先生は授業開始時間に遅れて教室に入ってくると「今日は自習にします」と弱々しい声で宣言した後、こめかみを抑えながら出席をとり、最後のWの出席を確認するとそそくさと教室から出て行った。しかし、この先生は午後には完全復活を遂げて校門に入ってすぐのところにあるテニスコートで仲間の先生と一緒にテニスを楽しんでいた。軟式テニス部の顧問は英語の先生で、なぜかネットだけは校舎裏(テニスコートからは一番遠い所)にある部室ではなく英語の先生たちの“たまり場”でもある「英語科研究室」に持って行く決まりになっていた。(ちなみに、高校の先生方は実際に授業をしなければならない時間以外にも“教科指導研究”という名目で“自由な”時間がけっこう多く与えられていたのだ。)当時のK高の英語の先生たちは昼食の後のひと時を、ほぼ毎日のようにテニスをしながら過ごしていた。生徒たちが練習に来るまでの間テニスコートは空いているため、5時間目と6時間目のたっぷり2時間、先生たちはテニスコートを独占できたわけだ。軟式テニス部員にしてみれば練習の前にはすでにコートにはネットが張られているので手間が省けて好都合でもあった。

 英語を教えるためには体力も必要だったのか、あるいは教室にまでは聞こえてこなかったが、きっと会議や打ち合わせをしながらプレイをしていたのであろう。

 また先輩たちの話では、授業をさぼって学校の近くのパチンコ屋に(K高の先輩が)行ったら、体育のT先生がジャラジャラとたくさん出していて「お、ちょうどいい時に来たな。景品を持って帰るのを手伝ってくれ」と言われたそうだ。これらはどこの街にもあった、昭和の懐かしい風景である。

 

 ところで、その「6時間目の自習時間」でNの能力が存分に発揮された。例えば2時間目の授業が「自習」に決まると他の教科の先生方と交渉して(基本の時間割を無視して)、まるでパズルを解くように時間割を1つ1つズラしていって「6時間目を自習」に組み替えてしまうのだ。これはクラスメイトだけでなく先生たちからも喜ばれた。「自習」の時間が下にズレてゆくことは、つまりは「授業」の時間が繰り上がることになるので、午後の時間が「自習」で“自由”になって都合が良くなる人達がK高にはたくさんいたからだった。

 Nは自分のクラスの「授業時間割」だけでなく、それぞれの教科を教えている先生方の<個人時間割>の方もほぼ全員分を把握していたのだ。

 

 そんなワケで、Nの予定は入学の当初から計画通りには行かなかったのだが、それでもなんとか授業と授業の合間の休み時間くらいはひとりで過ごすことにした。中学生の時からの愛読書である<三島由紀夫>や<萩原朔太郎>などを読みながら(読むふりをしながら)、クラスメイトたちの賑やかな会話に聞き耳を立てていた。その一方で、クラスメイトから何かを話しかけられても大抵の場合は無視してそのまま読書を続けていた(ふりをしていた)。そうやって総務委員の仕事は仕事としてクラスの皆のために働き、プライベートな時間は極力クラスメイトとは関わらないようにしていた。

(つづく)

 

プロフィール

丹羽塾長

<現職>

桐生進学教室 塾長

 

<経歴>

群馬県立桐生高等学校 卒業

早稲田大学第一文学部 卒業

全国フランチャイズ学習塾 講師

都内家庭教師派遣センター 講師

首都圏個人経営総合学習塾 講師

首都圏個人経営総合学習塾 主任

首都圏大手進学塾    学年主任

都内個人経営総合学習塾 専任講師

 

 

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