非認知能力育成の研究校 玉村南中の取り組み② 「複数担任制」
群馬県では2023年度から非認知能力の評価・育成事業に着手している。その研究校の一つが玉村町立玉村南中学校(吉田知宏校長)だ。
研究校の指定を受け、様々な試みを続ける同校だが、吉田校長は「非認知能力の定義とか、そういう難しいことは考えず、どんな力をつければ生徒が伸びるのかという視点で実践しています」と話す。教員間で話し合いの場をつくり、非認知能力の育成について、①自分で気がついて、考え、正しく判断して実践する「自律する力」、②様々な人とつながったり相談したりして発信できる「つなぐ力」、③粘り強く最後までやり遂げる力である「グリット」の三つにしぼり込んだ。
具体的に同校がどのような実践を行っているのか、2回に分けて報告する。
■複数担任制の導入で自律を促す
「せっかく研究校になったのだから、いろんなことに挑戦しようと先生たちに声をかけたらいろいろな取り組みをしてくれました」と吉田校長は玉村南中の研究校としての取り組みが動き出せたのは教員の熱意があってこそだと話す。
玉村南中はカリキュラムの中でも先進的な取り組みを行っている。
研究校として横浜創英中高などいろいろな学校を視察する中で現場の先生から、子どもたちの自律を育むために「複数担任制」や「チーム担任制」が有効だと聞いた。そこで、今年の中学1年生には「複数担任制」というしくみを取り入れた。
「複数担任制」とは担任を固定せず、リーダーである学年主任と6人の先生で1つの学年を運営していくもの。1週間単位でクラス担任がローテーションするので、生徒も様々な先生と接点を持つことができる。
固定担任制より生徒・保護者と教員との関係が希薄になる面はあるとした上で「その分、生徒自身が動かなければならない、自己決定しなければならない場面が多くなることが自律につながるのではないか。また生徒も保護者も教員も人間だから『合う、合わない』がどうしても生じる。固定担任制で生じる弊害も解消できるのではないか」と吉田校長は期待を寄せる。
現状では中1だけだが、来年度、再来年度と導入学年の裾野を広げていく計画だ。「ここから三年間試してみて成果が上がるかどうかを見極めていきたい」と吉田校長は話す。
「複数担任制」が導入されていない中2、中3生も三者面談については子供と保護者が先生を指名して実施している。「今の三年生が昨年度それをやってみて、保護者の受けが、まあよかったので継続して実施しています」(吉田校長)。中2生は担任を指名するケースが多かったが、中3は進路指導の経験値の高い先生に指名が集まったそうだ。
■失敗の許される環境作り 玉南の数学の取り組み
数学のクラスのイメージ
中1については数学の授業にも先進的な取り組みを取り入れた。キーワードは「個別最適化」だ。数学の教員をクラスに2人配置して、一クラスを二つに分け、一つは今まで通りの普通の授業スタイル、もう一つは一斉に授業をした後に自分で好きなワークや問題集に取り組めるようにしている。各自の端末を活用しAIの学習ソフトで進めてもいいそうだ。どちらのスタイルかは生徒自身が選択でき、合わなければ途中で移動することも可能にしている
中1の数学については中間テストを実施せず、単元テスト主体に変えた。単元テストの結果が本人にとって不本意であれば、再テストの機会も用意した。受けるか受けないかは生徒自身で決めるスタンスだ。再テストを受けて、得点が上がっていれば、それを評価することにしている。「失敗が許される環境を作ることで挑戦する気持ちを促したい」という思いがある。再テストの受験を自ら決めることで、学習への主体的な取り組みや自律心の養成を狙っている。
「成果や反応はまだ分からないが、一年試してみて、成果に繋がらなければ、改善していけばいい」(吉田校長)。
公立中学だから教員の異動は免れない。吉田校長はそれをむしろ好機と捉える。「玉村南中で体験、研究したことを別の学校に異動したときに、その学校でも展開していけば、広がっていくのかなと。結果的に群馬県の教育の質をあげていく力になってくれればいいなと思います」
(編集部)