【特集】定員減の時代に(2)倍率上昇がもたらすもの
公立高校の定員削減のニュースは教育現場や受験生に衝撃をもって受け止められた。現在の中3は2002年の生まれだ。奇しくも生まれた年にゆとり教育がスタートし、彼らが小学校に入学した頃から、OECDの学習到達度調査の結果を受けてゆとり教育の見直しが行われた。学習指導要領の改定が実施されたのは小学入学直後、「脱ゆとり」教育のスタートと軌を一にする。そして、待ち構える大学入試でも大きな変革が行われる。日本の教育改革の実施第一世代にあたる02世代。迎える高校入試でもそのうねりに巻き込まれる。
■人口減少率を加味して倍率を予測
編集局では、県教委が実施した昨年度の第2回進路希望調査(12月)をもとに、今回の削減がどのように影響するかシミュレーションを試みた。
第2回の進路希望調査をもとにしたのは、
❶ 11月の学校の三者面談を踏まえた数値なので、実際に受験する可能性が高いという点
❷ 倍率を考慮して志願先を検討する前なので、純粋な第一志望校である可能性が高いという点
からである。
まず「学校基本調査」をもとに今回削減が行われる前橋・高崎・桐生・館林の現・高1人口と現・中3人口から人口減少率を算出した。隣接市を多く持つ伊勢崎市も参考数値として入れてある。
自治体 | 現高1 | 現中3 | 前年比 | 減少率 |
前橋市 | 3199 | 3177 | 99.3 | 0.7 |
高崎市 | 3362 | 3360 | 99.9 | 0.1 |
桐生市 | 1061 | 1010 | 95.2 | 4.8 |
伊勢崎市 | 2173 | 2024 | 93.1 | 6.9 |
館林市 | 751 | 727 | 96.8 | 3.2 |
群馬県 | 19159 | 18549 | 96.8 | 3.2 |
昨年度の「進路希望調査」の志願者数にこの率(前年比)を乗じて、今年度の志願者を予測値(下表:E)として出した。伊勢崎市はどのように分散するか予測できないためデータには加味していない。ただし、実際は伊勢崎から前橋・高崎・桐生に流入受検者がいるので注意が必要だ。
この数を基本にして、昨年度と定員が変わらなかった場合の見込み倍率(下表:F)と削減が行われた場合の見込み倍率(下表:G)を算出した。
倍率予測シミュレーション
※この数値はあくまで予測値であって、実際の数字がこの通りに出るわけではありません。
この数値から言えることは、館高と館女に関しては、定員を削減しなかった場合、定員割れを起こす可能性が高いとうことだ。その意味で今回の措置は妥当だったといえる。
一方で、高崎・前女・桐生に関しては定員削減に伴い、倍率が大幅に上昇する可能性がある。過去、大規模な定員削減が実施された1997年、削減された学校の倍率は軒並み上昇した。
(参照)【緊急特集】どうなる定員減 伝統校の入試への影響は?
仮に高倍率になった場合、これらの学校を志望する受験生が不合格を回避するために、第2志望校に変更したり、私立高校に流れる可能性は十分に考えられる。
こう見てくると、今回の削減には複数の意図があることが読み取れる。仮に今回の定員削減が人口減少に伴う措置だとすれば、人口減少率が低い高崎・前橋地区の進学校で定員削減を行う必然性がないからだ。
○統合による削減:吾妻中央高校と富岡高校 ○ 統合を見据えた削減?:桐生・桐女 |
桐高と桐女については、平成33年度の統合に向けた準備とみることもできる。昨年、桐生高校で行われた説明会の中で「桐生高校と桐生女子高校を合わせると現状で12クラス。統合されるとクラス減は行われるだろう」と学校側が将来的なクラス減を示唆していたからだ。
たしかに人口減少率で見ると、桐生は県全体の3.2%を上回る4.8%の水準で中3の人口が減る。一見すると妥当な措置に見える。しかし、試算によると、桐生高校に関しては定員が変わらなかった場合でも、予測値で1.23倍、定員が削減された状態では1.53倍という高い数値が算出された。
これについて、伊勢崎市内のある塾関係者はこう説明する。
「桐生自体の人口は減っていますが、桐生高校は駅から近いという利便性もあって、伊勢崎からの流入者が非常に多いんです」
桐生高校に関しては「学力維持のための削減」的な要素もあるとみるのはうがちすぎだろうか。
■倍率上昇と学力維持の相関
では、倍率を維持することがどの程度、学校のレベル維持に影響を与えるのだろうか。編集部は東毛地区にある塾から内部資料の提供を受けた。資料は館林高校の合格者の追跡調査をもとに、倍率と入学者の学力を分析したものだ。
青い棒グラフは合格者総数(模試受検者※)に占める偏差値49以下の割合を表したものだ。赤い折れ線グラフが倍率を示している。偏差値は県内で最大規模の業者テストのデータを引用している。※模試は全受検者の70~80%が受験している。
館林高校では長期にわたって定員割れが続いていた。継続的な定員割れによって、進学校にもかかわらず偏差値49以下の割合が経年で右肩上がりに増加していることが読み取れる。偏差値49以下の割合が35%を超えてしまった平成27年度入試では偏差値30台でも合格できる状況になってしまった。
後期入試の倍率が1.22倍に跳ね上がった平成28年度入試では、逆に偏差値49以下の割合は減少している。このデータが示しているのは、倍率と学力には明らかな相関があるということだ。
学校が学力レベルを維持しようとするならば、高い入試倍率を維持しなければならないということにほかならない。
(編集部=峯岸武司)