シリーズ・大学受験を読む(3)ーどう変わる、大学受験
■大学入試、どう変わる。
2020年から大学入試が変わる。具体的に言うと、現中1生の代から変わることになる。
中央教育審議会の提言では、①「人が人を選ぶ」個別選抜の確立 ②センター試験の廃止 を掲げ、センター試験に代わって、「高等学校基礎学力テスト」「大学入学希望者学力評価テスト」(ともに仮称/両方合わせて新テスト)の実施をうたっている。
「基礎学力テスト」は年2回ほどで高2の受験を認めたもの。毎年夏から秋にかけて実施される予定だ。「大学入学希望者学力評価テスト」は年複数回実施が予定され、記述式問題が導入されるそうだ。記述に関しては2020~23年は短文記述、新学習要領改訂後は文字数の多い記述式に移行すると見られる。
■「高等学校基礎学力テスト」とは
「基礎学力テスト」は2019年から複数回実施予定。高校教育の質の確保・向上のための仕組みである。高等学校の指導要領を踏まえた問題で、学習の達成度を測る。文科省の狙いは何度も受けて、生徒に成績の伸びを実感してもらうところにあるという。ただし2019~22年の成績は大学入試には活用できず、新課程以降に活用が検討されている。英語に関しては、民間の資格・検定試験も積極的に活用する予定だ。
■「大学入学希望者学力評価テスト」とは
大学通信の安田賢治情報調査・編集部ゼネラルマネージャーは「学力評価テスト」について、「大学教育に必要な思考力、判断力、表現力を判定するテスト。当面は『教科型』『合教科・科目型』『総合型』を組み合わせて出題。やがては『教科型』の出題をなくす方向だ」と解説する。2020年に関しては「カリキュラムは変わらず、入試が変わる」ことになる。
中教審の示した「合教科・科目型」「総合型」とは、たとえば、現行の国語・英語は「言語」に、理科(生地物化)は「科学」に統合といったイメージだ。
ただ、安田氏は狙いは十分にわかるがとした上で、「今年のように新課程入試ですら、平均点格差が生じた。誰が作問するのかという課題は残る。2024年からCBT方式(コンピュータを利用したテスト)に切り替わるが、採点をコンピュータにやらせるのか、あるいは人にやらせるとしても公平性が担保できるのかという疑問も残る」と指摘する。
サンプル問題は2016年に公表され、プレテストが2017年に実施される予定だ。
■各大学の選抜方法はどうなるのか?
「学力評価テスト」に加え、各大学では個別選抜を実施するが、現行の一般・推薦・AO入試の区分を廃止し、新ルールを策定するとされている。各大学のアドミッション・ポリシーに基づき、入学希望者の多様な能力を多元的に評価する選抜方法へ改革する。小論文・プレゼンテーションや集団討論・面接という形態がいまのところ有力視されている選抜方法。「AO入試を発展させたイメージ」とAO入試の受験指導で実績を持つ学習塾塾長の藤岡慎二氏は話す。
■なぜ大学入試改革なのか~AO・推薦入試の功罪
では、なぜ大学入試改革が急がれるのか? その鍵を握るのが「少子化」と「AO・推薦入試」だ。
AO入試は1990年に慶応大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)で導入された入試方法。アドミッションポリシーに基づき、志願理由書や小論文、面接で合否を決定する選抜方法だ。
文部科学省の資料によると、2000年には全大学でのAO入試比率は、1.4%だったが、2012年には約1割を占めるようになった。推薦入試と合わせると、約4割強の学生が、非一般受験で入学したことになる。特に私立大学では約半数が非一般受験で入学している。
AO・推薦入試は入学辞退率が低く、少子化の時代になって、「事実上、大学の青田買いとしての機能をしてきたことも否めない」と学習塾講師のA氏は指摘する。秋口には合格を出し、囲い込むことで、確実に入学者を確保できる利点が大学側にはある。そのため、「安易に合格者を出す私学などもあり、学生の学力低下の一因となっている」(A氏)。
AO・推薦入試で入学した学生は大学受験という壁を乗り越えてきていない分、ストレス耐性が弱いという指摘もある。また、学力試験を課されていないため、基礎学力が低い。「ローマ字すら読めないで社会人になるなんていうケースも聞きます」(A氏)。
こういう流れもあり、大学の入試選抜方法を入社面接時に確認したり、選抜基準に出身高校も加味する企業も出てきている。
「企業はレジリエンス(逆境から立ち直る力)の高い人材を求めています。そういう意味で、公立中学~公立高校~一流大学というルートを経た学生の評価は高いですね。公立中学は社会の縮図です。様々な生徒がいる中で高いモチベーションを保ち続けられたからこそ、大学まで進学できたわけです。温室育ちではない魅力があります」(A氏)
一方で、東北大学が学内で実施した調査によると、入学後の試験成績が優秀な学生は一般入試組ではなく、AO入試組だった。「入学後に伸びる可能性が高い地頭を持つ学生を『第一志望』で獲得した方がいい」(「AO入試=バカの誤解」/週刊ダイヤモンド)。実際、東北大は総定員に占めるAO率は18.3%と高い比率を占めるが、これを2018年度までにさらに約3割に引き上げるという方針をとる。
実績がなければ、旧帝大の東北大がこのような方向には行かないはずで、しっかり裏付けられた成果があるはずだ。ただ一部には「東北出身の優秀な層が東大に流れるのを防ぐ『青田買い』だ」という批判もある。
意識の高い学生を確保できる点と受験で疲弊しきっておらず、伸びしろが期待できる点でAO・推薦入試のよさも否定できない。反面、学力検査というフィルターを通過しないため、学力の低い学生を安易に入学させてしまう問題も抱えている。2020年からの大学入試改革は現行のこういった入試制度の負の部分を解消する目的もある。
大学通信の安田氏は「大学入試が大幅に変わることで、高校教育の見直しも行われてくるでしょう。新たな教科・科目の設置も検討されていますし、大学の卒論のような課題探究型の授業の充実も検討されています。英語に関しても、小学校から高校まで学ぶことで『英語を使って何ができるようになるか』という視点にシフトしていくでしょう」と話す。そういう意味で、大学受験において中高一貫校が有利になるのではないかという意見もある。
■おわりに
1992年の18歳人口は約205万人でピークに達した。いわゆる「団塊ジュニア」世代だ。現在の40代前半の人たちが該当する。それが2024年には約106万人に半減する。
少子化の波はいやがおうにも押し寄せている。大学はいかに数と質を維持できるか、ますます知恵と工夫が必要となるだろう。国としても数の減少が質の低下につながってはならないと試行錯誤だ。経営を成り立たせたい大学側の思惑と国際競争力を高め、教育の質を向上させたい国の意向のせめぎあいの中で、大学受験改革は先行き不透明感を抱えたまま、すでに走り出している。(おわり)
(編集部 峯岸武司)