高校化学グランドコンテスト受賞校に聞く(2) 群馬高専編
第14回高校化学グランドコンテストの最終選考会が10月28日、29日に名古屋市立大で行われた。エントリーは100チームに上り、その中から上位10チームが1次審査により選出され、最終選考会で英語による口頭発表チームとして出場した。
群馬県からはこの上位10チームに群馬高専と樹徳高校の2チームが選出され、ともに好成績を残した。両校の生徒はいったいどのような研究を行ったのか。実際に両校を訪ね、取材した。
(群馬高専はこのコンテストで三大学長賞とパナソニック賞を受賞した。三大学長賞は3位に相当する賞だ)
群馬県からはこの上位10チームに群馬高専と樹徳高校の2チームが選出され、ともに好成績を残した。両校の生徒はいったいどのような研究を行ったのか。実際に両校を訪ね、取材した。
(群馬高専はこのコンテストで三大学長賞とパナソニック賞を受賞した。三大学長賞は3位に相当する賞だ)
| グランドコンテスト出場までの道のり
そもそもどういう経緯でグランドコンテストに応募することになったのか。「昨年、同校・物質工学科3年生の女子学生がグランドコンテストに出てみたいと申し出があったのが始まりです」。嬉しそうにこう話すのは、指導担当の物質工学科・齋藤雅和助教だ。
そもそもどういう経緯でグランドコンテストに応募することになったのか。「昨年、同校・物質工学科3年生の女子学生がグランドコンテストに出てみたいと申し出があったのが始まりです」。嬉しそうにこう話すのは、指導担当の物質工学科・齋藤雅和助教だ。
彼女の呼びかけに呼応して同学年の有志が集まり、研究チームが立ち上がった。とはいえ、どんなテーマで研究を進めるかについては様々な試行錯誤があったそうだ。
「最初は、UVカットが何で紫外線をカットできるか知りたいなんて話もありました。でも、そんなことはインターネットを調べて分かってしまうので、研究にはならないですよね」(齋藤助教)。いろいろな検討を重ねる中で、廃棄物を利用して何か環境に役立つものをやってみたいということになった。
今年度からは理科部に合流する形で物質工学科の設備を使って研究をすすめた。
| お菓子の乾燥剤とアルミホイルで水素をつくる
アルミホイルに酸かアルカリを反応させると水素が出る。水素はクリーンエネルギーとして注目されているので、この方向性で進めていくことになった。
アルミホイルに酸かアルカリを反応させると水素が出る。水素はクリーンエネルギーとして注目されているので、この方向性で進めていくことになった。
まず手始めに酸性のレモン汁で実験をしてみた。ところが、これは失敗した。
「酸が難しいならアルカリでやってみようということになりました。アルカリ性の廃棄物でメジャーなものが乾燥剤だったので、試行錯誤する気持ちでいたが、一発でいい物質に出会えた」と齋藤助教は振り返る。
廃棄されるお菓子の乾燥剤は酸化カルシウムというアルカリ性の物質だ。これに水とアルミホイルを使って、クリーンエネルギーとして注目されている水素を発生させる研究を進めた。ただ反応させるだけではなく、酸化カルシウムやアルミホイルの量などを変えることで反応速度や水素の発生量にどのような変化がみられるかを検証した。
アルミホイルの量を一定にし、酸化カルシウムの量を変えたときは、水に溶ける酸化カルシウムの量で発生する水素発生速度は決まっていた。水100mlに対して酸化カルシウムは0,1g程度しか溶けない。反応は酸化カルシウムの溶解度に影響を受けることがわかった。
ところが、酸化カルシウムの量を固定し、アルミホイルの量を変化させた場合、反応速度が上がっていくのに合わせて、発生する水素量も上がりつづけた。反応式から求めた理論値以上に反応が進むことをつきとめ、「これは面白いね」ということになった。
どこまでいけるのかアルミホイルのみを同量加えて検討をした結果、pH値は多少減るものの、アルミホイルを同量20回以上加えてもpH10(アルカリ性)を維持し続けることも明らかになった。反応させ続けると多少反応する速度は落ちたが、それは水の量が減少していて、反応で出てくる酸化アルミナなどの堆積物が原因と考えた。堆積がなければほとんど変わらず反応し続けたのではないかという仮説を得るにいたった。
反応後の溶液から堆積物をろ過により除去し、ろ液にアルミホイルを加えると、さらに水素が発生したことから、溶けているカルシウムイオンなどが反応に関与している可能性があるのではないかと結論付けた。
他のアルカリの物質でもできるどうか、水酸化ナトリウムでも試みた。しかし、水酸化ナトリウムではこのような特性は示さなかった。
「水酸化カルシウムでしか試していないので、完全に切り分けられたわけではありませんが、アルカリの物質なら何でもよいというわけではなく、カルシウムが何か特別なものなのかもしれませんね」と指導担当の齋藤助教は説明する。
群馬高専自体が技術と知識を両立させるカリキュラムで、本科の授業の中にも実験がある。並行しながら研究を進めていくためには、時間の使い方は大切だ。学生たちは放課後などの時間を上手に活用して研究をつづけた。「勉学との両立ができるように、週2~3日のペースで実験・研究を重ねました」(齋藤助教)
| 発表はすべて英語で
長期にわたる研究・実験でまとめあげたテーマは「廃棄物を利用したアルミホイルからの水素製造および反応機構の研究」だ。
長期にわたる研究・実験でまとめあげたテーマは「廃棄物を利用したアルミホイルからの水素製造および反応機構の研究」だ。
発表には英語が推奨されており、日本語も可能だが、高専はすべて英語で行うことに決めた。英語の方が評価ポイントが高いからだ。プレゼンテーションに用いたパワーポイントの資料もすべて英語で書かれている。大学の論文さながらだ。
【写真】高専の学生たちが作り上げた資料の一部(表記はすべて英語だ)
まず学生たちが日本語で発表資料を完成させた。それから、それを彼ら自身の手で英語に直す。英語といっても化学論文なので専門用語もたくさんある。化学を専攻している高専生でも大変な作業だ。英訳したレポートを先生とやり取りを重ねながら、完成資料に仕上げた。
発表当日、あらかじめ用意した英語原稿をもとに、学生たちはプレゼンに臨んだ。齋藤助教は「一番大変だったのは、質疑応答ですね」と当日を振り返る。質疑応答も英語だ。当然、質問に対して英語を使ってアドリブで返さなければならない。「彼らもよくやったと思います」(齋藤助教)
この研究が実用化されれば、ごみの削減とクリーンなエネルギーの創出にもつながる。反応により出てきた廃棄物も建物のセメントとして利用できる。
彼らの真摯な化学への取り組みが評価され、三大学長賞を受賞。三大学長賞は全国3位に相当する賞だ。環境に優しいエネルギー技術の研究ということで、パナソニック賞もあわせて受賞した。
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群馬高専には実験が好き、理系科目を究めたいという学生が多く集まっている。今回のコンテストの受賞の意義は、その研究内容だけではない。先生から与えられた課題を受け身にこなすのではなく、学生たちが主体になって、能動的な形で研究を行ったことに大きな意味がある。
技術立国・日本の将来を担う若者たちが今日もまた、熱心に実験・研究に取り組んでいる。
(編集部=峯岸武司)