公立学校の芝生化の取り組みの「いま」
群馬県教育委員会管理課では公立小の校庭を芝生化し、子どもがスポーツに親しむ環境整備に取り組んでいる。
公立小の芝生化の取り組みの「いま」を取材した。
■きっかけは体力テスト
「(山本県政がスタートして)県の事業掘り起しが行われ、その流れの中で芝生化という話が持ち上がりました。背景には群馬県内の小学生の体力が全国平均を下回っていたということがあげられるかと思います」。こう話すのは県教委の担当者だ。
群馬県は中学生の運動部所属率が全国に比べ高い。それもあって、文部科学省が毎年行っている体力テストでは中学生は男女ともに全国平均を上回っている。一方、小学生については男女ともに全国平均より低い状況が続いてきた。
平成26年度に文科省が調査した「運動時間・運動習慣等調査結果」では体育の時間以外での1週間の総運動時間(下表/単位:分)で小5の男女ともが全国平均を下回っている。
| 群馬県 | 全国 |
小5男子 | 583 | 607 |
小5女子 | 314 | 349 |
中2男子 | 1030 | 920 |
中2女子 | 769 | 645 |
こうした状況を打開すべく、県では平成26年度から、「ぐんまの子どもの体力向上推進事業」の取り組みをスタートさせた。
この事業が始まって以来、体力優良証(体力テストの総合点がAの子どもに与えられる証)を受けた子どもの割合が過去最高となるなど、成果は確実に上がり始めている。
公立小の校舎を芝生化する事業もこの一環で、①子供たちの外遊びの機会を作り、体力の増進を図ること、また②校庭でのけがを防止することなどを目的にスタートした。
事業は公立小の校庭を芝生化する市町村に対し、「子どもがスポーツに親しむ環境の整備事業補助金」を県が交付する形で行われている。
この制度を活用して、「ぐんまモデル第1号」となる校庭の芝生化を進めているのが高崎市立中居小学校だ。同小では今年6月に芝植えを実施、9月13日には芝生の校庭の利用を開始している。「(中居小の)校舎の芝生化に関しては令和2年度に予算化したが、コロナ禍で実施できず、今年度の実施になった」と県教委の担当者は話す。
■環境にもやさしい校庭の芝生化
外で遊ぶ子供の増加・けがの減少という理由以外にも校舎の芝生化のメリットはある。
東京都では緑化推進、温度上昇の抑制、砂ぼこりの抑制、校庭の水はけ改善などの面からも校舎の芝生化を進めている。
たとえば、温度上昇の抑制に関して都が行った調査では、ダスト(石灰岩の砕石粉)舗装の校庭に比べ、芝生化の校庭の温度は8.3度低かったそうだ。都市部で深刻なヒートアイランド対策にもなると都は考えている。
(東京都ホームページより作成)
都道府県が学校の芝生化事業に対して助成を行うケースは少なくない。そうした後押しもあって、校庭の芝生化は徐々にではあるが、増えつつある。とはいえ、文科省の統計によれば、平成27年度の時点で公立学校(小学校・中学校・高校・中等教育学校)の芝生化率は全学校数の1割にも満たないのが実情だ。
公立学校の芝生化率の推移
(文部科学省の資料より編集部が作成)
■県内の公立小で芝生化は広がるか?
SDGSの流れで環境教育が進む中、芝生化は環境貢献にもつながる取り組みではある。子どもたちの体力増進につながるという利点以外にも、芝生化の教育的な意義は少なくない。冬場の空っ風で校庭が砂嵐になるのを防止する効果も期待できる。
校庭の芝生化についてメリットを感じる保護者は多いようだ。
Webサイト「パパママの本音をウーマンエキサイト×マチコミ」が2018年4月25日に配信した「校庭の芝生化、賛成? 反対?」(回答数6627件)によれば、53.3%の保護者が賛成と答えている。反対は19.5%、わからない・どちらとも言えないという回答は27.2%だった。
芝生化に反対する人の声も、校庭が芝生になること自体に反対というより、「(芝の)入れ替え費や維持費を問題視している」(サイトより)といった、メンテナンス面での負担増を心配した意見だ。
県内でも、この負担感については懸念する声があがる。編集部の取材では「芝生化は素敵だが、メンテナンスで保護者が駆り出されるのであればちょっと…」(太田市・40代女性)、「維持が大変そう」(太田市・40代女性)という意見があった。
では、実際のところ、芝生を維持する負担感はどうなのか。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の根本敦史さん(肩書は当時)の修士論文「教育現場から見た校庭芝生化の効果と課題」(2018年度)によれば、芝生化した各小学校がかけている年間の維持管理コストの全校の平均額は 296,105 円で、維持管理の総合負荷(作業時間×回数)は年間作業時間が平均 64.151 時間だった。作業負担感でも「非常に負担である」「負担である」と回答した学校が全体の 72.0%を占めた。維持の負担は決して軽くない。
はたして県内の公立小で校庭の芝生化は広がるのか。「今のところ、来年度以降については未定」と県教委の担当者は話している。カギは教育的なメリットを最大化し、維持の負担をいかに低減するかにある。
(編集部=峯岸武司)