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県教委の新たな挑戦 3Dメタバースによる不登校支援「つなサポ」に潜入

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県教委の新たな挑戦 3Dメタバースによる不登校支援「つなサポ」に潜入

教育全般

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2024.07.11 
tags:つなサポ 群馬, ガイアリンク つなサポ, 群馬 フリースクール, 群馬県教育委員会, 群馬県教育委員会 不登校支援, 群馬県総合教育センター

 群馬県教育委員会(平田郁美教育長)は6月3日に3Dメタバースを活用した不登校支援センターである「つなぐんオンラインサポート」(「つなサポ」)を開設した。3Dメタバースで実績のあるガイアリンクのシステムを利用する形で実現。自治体がメタバース空間を使って不登校支援を行うのは愛媛県に次いで2例目になる。接続機器にかかる費用や通信料は保護者の負担だが、「つなサポ」自体は無料で利用できる。

 

「つなサポ」にはどんな児童生徒が通えるの?

 原則30日以上学校に通えていない児童・生徒で、教育支援センターやフリースクールなどから支援を受けていない人を対象にしている。ただ、原則の線引きは難しく、「つなサポ」を運営する県総合教育センター(伊勢崎市)の古市功所長は「あくまで原則は原則として個々のケースに応じて臨機応変な対応をとっていきたい」と話す。実際、全く学校に通えなかった子が『つなサポ』に参加したことで、学校の行事には参加するようになったケースもあったという。「だからといって、その子はもう『つなサポ』には参加できないというわけにはいかないですよね」と古市所長。

 6月下旬までに60件を超える問い合わせがあり、「反響が予想以上に大きい」と古市所長は「つなサポ」に手応えを感じている。登録者には制限を設けていないが、7月現時点では同時に接続できる上限は20人。今後、同時接続数を増やす方向で検討している。

 

「つなサポ」入室までの流れ

 「つなサポ」に参加するためには、在籍する学校の判断が必要になる。入室を希望する場合、在籍校が総合教育センターと連携し、受け入れ体制を協議する。その後、保護者による「利用申込書」、児童・生徒本人が記入した「自己紹介カード」、在籍校が児童・生徒の状況を記入した「個人票」を学校経由で総合教育センターに提出。保護者、学校と総合教育センターとの話し合いを経て、「つなサポ」での活動がスタートする。6月21日時点では県内各地から14人(小学生8人、中学生6人)の児童・生徒が在籍しているそうだ。

 

「つなサポ」ではどんな活動をするの?

「つなサポ」に参加した児童・生徒は、メタバース空間内の「プライベートルーム」に入室することができる。活動日は月曜日から金曜日の午前10時~午後3時までで、入室の時間は自分で決めることができる。退室もチャットを通じて担当スタッフに伝えれば途中で抜けることもできるそうだ。アバター名は最初に申請した名前を使うことが原則だが、アバターの服装は自由に決めることができる。「服装もその日の気分で変えられます」とは総合教育センターのスタッフの話。取材した7月2日はちょうど七夕前で「七夕週間」の最中。それぞれが七夕仕様の服装で参加していた。

 活動の内容は「つなサポ」内にスケジュールが掲示されている。「つなサポ」内での時間の過ごし方は自分で決められる。1日の中で4回ほどみんなで集まるスタートタイムやイベントタイムの時間があるが、参加を強制するものではない。

 在籍校での出席の扱いはどうなるのか。「学校の出席自体の認定は校長の判断に委ねています」とは古市所長。その判断の材料として「つなサポ」での活動内容は毎月、在籍校に報告している。

 

「つなサポ」を体験してみた

 記者も総合教育センターのスタッフに促されて、メタバース空間内を見学した。

「つなサポ」内での学習は自主学習が基本だ。学習サポートルーム(まなびルーム)では、NPO法人eboardが提供するオンライン教材を使って授業が受けられる。学年や教科を選択すると、解説動画が流れ、そのあと理解度を確かめるドリル問題が出題されるという流れだ。その他、NHKの教材やタイピングアプリで学習する部屋も用意されている。自宅学習で分からない問題があれば「つなサポ」スタッフに質問をすることもできる。

【写真】まなびルームの様子(写真は一部加工してあります)

【写真】eboardの学習メニュー(写真は一部加工してあります)

【写真】eboardの学習動画の様子(写真は一部加工してあります)

【写真】eboardのドリル(写真は一部加工してあります)

 フリースペースでは他の児童・生徒や担当スタッフとの交流やイベントに参加することもできる。ちょうどこの日はイベントタイムで音楽に合わせてダンスを楽しむ時間だった。記者もパソコンのカーソルボタンやマウスをいじりながら、ダンスに参加した。「上手ですね」とスタッフに声をかけられ、少し照れくささを感じたが、アバターとはいえ、他の参加者と何かを一緒にする感覚はちょっと新鮮だ。

【写真】メタバース空間内の教室の間取り

 コミュニケーションサポートルーム(ふれあいルーム、ワークショップルーム)では探究活動や疑似体験活動をすることも可能だ。

【写真】ふれあいルームの入り口

【写真】掲示物もリアル!

【写真】このポスター、スタッフの手作り

【写真】「つなサポ」スタッフの紹介も掲示されている

【写真】七夕イベントのお知らせ①

【写真】七夕イベントのお知らせ②

【写真】エモートボタンを押せば、感情を表現することもできる

 相談サポートルーム(ほっとルーム)ではプライベート空間で担当スタッフによる教育相談を受けることができる。

 外に出ることもできる。「シュート練習してみますか」。スタッフに声をかけられ、バスケットのシュート練習をしてみた。体の動きは少ないものの、リングを狙ってボールを放つ動きはなかなかリアルだった。

メタバース空間がつなぐ教育の未来

 総合教育センターの古市功所長は3Dメタバース空間に大きな可能性を見いだしている。「オンラインの不登校支援はZOOMを活用したものなど、結構あります。でも、ZOOMのようなツールは1対他には向いていますが、会議の域を出ないんです。学校の機能は学習だけではなくコミュニケーションも大きな柱です。コミュニケーションという軸で見るとメタバースの方が優れている。アバターが動くので、活動したり話し合いをしたりしやすいんですね」。古市所長が話すように、学校の機能の一部しか補完できないZOOMなどのリモートツールに比べ、メタバース空間は集団活動しやすい。「不登校のサポートはもちろんですが、離島や遠隔地といった教育的課題を解決する可能性も秘めている」と古市所長。

 コロナ禍のような事態が今後起こった場合、メタバース空間は子どもの学びを保障する大きな「道具」になりえるかもしれない。

(編集部)

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