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【シリーズ】校長に聞く(第5回) 前橋育英高校 二渡諭司校長(後編)

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【シリーズ】校長に聞く(第5回) 前橋育英高校 二渡諭司校長(後編)

教育全般

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2025.05.22 
tags:前橋育英, 前橋育英高校, 前橋育英高校 コース, 前橋育英高校 校長

 前橋育英高校といえば、全国的な活躍を見せるサッカーや野球など、スポーツの名門校として知られています。2024年に着任した二渡諭司校長は、公立高校での長年の経験を生かしながら、新たな育英のカタチを描こうとしています。後編では二渡校長の「教育としての原点」「教育論」について伺いました。

 

 

【写真】前橋育英高校の二渡諭司校長(同校・校長室で)

 

プロフィール
二渡諭司 

1963年 群馬県大泉町生まれ。青山学院大学理工学部卒業後、下仁田高校、太田東高校、桐生南高校(現・桐生清桜高校)、前橋高校で物理の教員として教鞭をとる。その後、県教委事務局、県立前橋高校の校長などを経て、2024年4月に前橋育英高校の校長に着任。

 

――前編では、育英高校の特色や進路支援、校長先生のビジョンについてお話を伺いました。続いて伺いたいのは、校長としての先生の“教育観”です。そもそも二渡先生はどうして教職を目指されたんですか。

「『なぜ教員になったんですか?』というのは別の取材でも聞かれましたが、センセーショナルなものなんてないんですよ。中学生時代に見た(俳優の)中村雅俊さんや水谷豊さんの学園もののドラマに憧れて教員の仕事に興味を持っていたくらいですかね。大学で物理を専攻していて、教員志望は少数派。当時は、民間企業への就職も好調な時期だったから迷いもありました。で、最終的に教員になろうって思ったのは、教育実習の時に指導教官の生徒との関わり方を見てですね。物ではなく人を相手にする仕事っていいなぁって」

――その後の教員生活の中で印象深かったことはありますか。

「前橋高校で教鞭をとっていたとき、高校でサイエンスパートナーシッププログラム(※)に参加していました」

※)児童生徒の科学技術、理科、数学に関する興味・関心と知的探究心などを育成するとともに、進路意識の醸成および分厚い科学技術関連人材層の形成を目的としたプログラム

 

――具体的にはどんなプログラムなんですか?

「東大の先生たちと組んで、核融合の研修をすることになったんです。当然、核融合は高校では勉強しない内容です。大学に行ってから、やるようなものなんですが、その研修ということで、いろいろな施設に行って、研究に近いようなことをさせてもらったりしながら、『核融合とはなんぞや』ということと、研究する魅力、楽しさを教えていくというような研修だったんです」

【画像】東京大学(東京大学HPより)

 

――レベルが高そうですね。

「そうなんです。生徒の指導をしてくれたのが大学の先生だったんですが、高校生相手ってことをあまり意識していないのか、専門用語を交えて難しい話をするんですよ。だから生徒たちはポカンとして聞いてる。でも、難しい話はするんですが、『核融合って面白いんだ!』っていう熱意が体全体から伝わってくるんです。内容は分からなくても、生徒たちは『きっとこの研究は楽しいに違いない』と感じ始めて、先生とメールでやり取りしたり、自分たちで核融合を理解しようと頑張り始めたりして。最終的には、科学未来館で研究者の前で堂々と発表するまでになったんです。そういう経験を見ていて思ったのは、授業ってただ知識を詰め込むんじゃなくて、『この学びは面白いんだ』っていう土台を伝えることが大切だってこと。そうすると、生徒は自分から学ぼうと自走しはじめます。理想の授業って、きっとそういうものなんだなって、改めて感じましたね」

【画像】大学の講義室(写真はイメージです)

 

――熱量は伝染しますものね。でもその熱量というか、思いを受け取れるかどうかも大切ですよね。

「そういう先生たちの熱意やシグナルを、生徒が受け取れるかどうかっていうのは、その生徒のこれまでの経験とかにもすごく関わってくると思うんです。結局、それをキャッチする力が必要なんですよね。で、その『キャッチする力』こそが、今よく言われている“非認知能力”なんじゃないかって思っています。これは、特定の教科や一つの経験だけで育つものではなくて、学校全体の教育活動の中で育まれていくものです。さらに言えば、家庭や地域社会も含めた広い環境の中で育てていくものだとも感じています。学校の中だけで考えるなら、授業だけではなく、部活や行事なども含めて、生徒が主体的に関わることで養われるものです。では、どうすれば主体的に取り組んでもらえるのか――結局それも、いろんな経験を積み重ねてきたかどうか、そこに行き着くんですよね」

 

――感受する側に失敗、成功含めた経験値が求められるんですね。最後になりますが、先生が生徒さんによくお話しされていることなどありますか。

「高校時代ってすごく多感な時期なので、大したことなくても、大きな失敗に感じたり、不安に感じたりするんですよね。でも、不安があるからこそ、それを乗り越えようとする力が湧いてきて、前に進めるんだっていうような話はよくします。それから、『過去は未来の自分が変えられる』って話もしますね。後から失敗した過去の経験を振り返ってみた時に、その過去があったからこそ、今の自分になれたんだって思えるような生き方をすれば、その過去はあっていい過去だったよねと。だけど、あの失敗のせいでこんな自分になっちゃったんだっていうことになる場合もあるじゃないですか。同じ経験でも、過去の評価って、その後の、つまり未来の生き方で、正反対になりますよね。だから、あの『過去』があったからこそ『今の自分』が築けたって思えるような生き方をしようよということは、これからも生徒たちには伝えて行きたいと思っています。話の最後には、自分を大切にすること、人を思いやる気持ちを持つこと、そして、いつか誰かのために何かができる人間になろうといつも話しています」

 

――自分自身も含めてとても勉強になるお話でした。本日はありがとうございました。

 

(聞き手・峯岸武司)

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編集部より 記事は配信日時点での情報です。

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