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新しい学校のカタチを切り拓くー軽井沢・ISAKの挑戦

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新しい学校のカタチを切り拓くー軽井沢・ISAKの挑戦

教育全般

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2017.07.08 
tags:ISAK, ISAK 軽井沢, ISAK 小林りん, アイザック

 ISAK(アイザック)という一風変わった高校が長野県の軽井沢町にある。その名もインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)。今年開校3年目を迎え、この春6月11日、初めての卒業生を送り出した。ISAKとはどんな学校なのか、実際に軽井沢を訪れ、取材した。

 

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 6月29日(木)。この日の軽井沢は新緑の眩しい良い天気だった。過ごしやすい気温の中、軽井沢駅から車を走らせること約20分。ほどなく西武が開発したあさまテラスという別荘地が見えてくる。あさまテラスの敷地内に入ると、再び区画整理された行き届いた風景に変わる。ISAKはその近くに校舎を構える。軽井沢町の長倉という場所だ。

 

ISAK外観

 

 この日、取材に対応してくれたのは、ISAK・広報担当の金子茉莉乃さんだ。あいにく学校は夏休みの期間に入っており、生徒たちは校舎にはいなかったが、教室内に貼られた生徒手作りのポスターやアートなどから、活気ある学期中の様子が想像できた。

ISAKポストイット2

【写真】ISAKの校舎の様子 生徒が書いたポストイットが貼られている

ISAK壁

【写真】校舎の壁は黒板・ホワイトボードになっていて自由に書き込める

ISAK壁家具

【写真】校舎の壁。新しい家具をかうための投票が書き込まれている

 

 ISAK設立までの道のり
 2014年8月24日。この日、軽井沢に全寮制国際高校「インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)」が産声を上げた。
 創立者の小林りんさんはカナダの全寮制インターナショナルスクールを卒業後、東京大学経済学部へ進学。外資系投資銀行、政府系援助機関などを経て、スタンフォード大学大学院で教育政策学修士号取得。2006年国連児童基金(UNICEF)に入りフィリピンへ赴任し、識字率を上げるプロジェクトに取り組んだ。

 

Lin-Kobayashi-2017

【写真】ISAK創立者の小林りんさん(ISAK ホームページから)


 学校設立の構想をかねてから温めていた発起人の谷家衛さんと小林さんが出会ったのはこの頃、2007年であった。もともと学校を設立することを視野には入れていたが、資金不足だったため、まずサマースクールや英語を集中的に学ぶプログラムを提供し、賛同者の輪を広げていった。立ち上げ時は紆余曲折、困難の連続だったという。資金集めの目途も立ったことから、2014年、常設校として開校に踏み切った。


 現在、各学年約50名がISAKで学ぶ。生徒の構成は海外からの留学生が7割、国内の生徒が3割という比率だ。

 「ISAKにはいわゆるホームルームはありません。生徒それぞれがシラバスを見て自分自身でカリキュラムを組みます」と広報担当の金子さんは説明してくれた。授業はすべて英語で行われる。教師も9割が外国人だ。

ISAK_Classroom

【写真】授業の様子

ISAK教室

【写真】ISAKの教室の様子。少人数で行えるサイズである。

ISAK校舎内1

【写真】校舎の中の様子。お休み中で薄暗いが、随所に本がたくさん配置され、さながら図書館だ。


 ISAKは学校教育法の一条校でもあり、国際バカロレア(IB)の認定も受けている。卒業してIBの試験にも合格すると世界各国の大学の入学資格として認定されている国際バカロレアディプロマが取得できる。
 高校3年間のうち、2〜3年次は国際バカロレア(IB)の「ディプロマプログラム」に対応している。1年次はその準備期間としてあてられる。

 

 ”チェンジメーカー”に必要な3つの力を育成する
 同校は多様なバックグラウンドを持つ優秀な生徒を、アジア太平洋地域を中心に世界中から受け入れ、国際社会で変革を起こせる「チェンジメーカー」を育成することを目指している。
 チェンジメーカーになるために必要な能力として、同校は「問いを立てる力」「多様性を活かす力」「困難に挑む力」の3つを掲げている。


 従来の日本の教育は知識を暗記し、出された問いに対して素早く正確に処理することに重きが置かれてきた。一方、「問いを立てる力」は何が問題なのかを自ら発見し、その本質を見極める力だ。
 授業が一方的なレクチャーではなく、思考を重視するディスカッション形式であることは言うまでもない。加えて、まず自分自身が何者であり、日々何を感じているかと向き合うため、「Mindful Self-Discipline」を学ぶ。このトレーニングは自らの軸となる価値観を見極め、また他者にとっても何が大切か、必要とされているか…に、自然と気持ちを向けられるようになることを目的としている。
 その上で、問題設定の方法とイノベーションのプロセスを学ぶプログラムである「Design Thinking」のメソッドを取り入れ、リーダーシップを発揮するためのスキルを身につける。同校では、生徒たちが、こうして身につけたマインドセットやスキルを基に、自らプロジェクトを作り出し推進する取り組みに力を入れている。
 2015年、ネパールで大地震が発生した際、ネパール出身の生徒が、「ISAKプロジェクト・ネパール」を立ち上げ、クラウドファウンディングや募金で国内外から約 600万円 の寄付金を集めたという象徴的なエピソードもある。こうして集まった援助金のほとんどが首都カトマンズにとどまってしまう問題に目を向け、壊滅的な被害を受けていた僻地に実際に足を運び、クリニックや学校の再建を実現させたそうだ。

 

 2つ目の「多様性を活かす力」はISAKの多様な環境の中で培われる。
 2017年8月には57か国から生徒が集まる予定だ。しかし、多様なのは国籍だけではない。「7割の生徒に奨学金を給付することで、家庭の経済事情や、歴史観や文化観など実に様々な価値観が渦巻く学校になっています」と金子さんは話す。こうした様々な背景を抱えた生徒が、同じ空間で議論をする。それまで自分たちの国で身につけた価値観が教室の中に流れ込むことで、子どもたちは新しい気付きを得る。
 一期生のソマリア出身の生徒は「地理の授業である地域のことを学ぶとき、その場所出身のクラスメートがいたりして、直接当事者の意見を聞ける。母国で生活していた時は、正直自分の文化が世界一だと思っていた」とISAKの授業を振り返る。
 様々な国から生徒が集まっていること自体が教育目標として掲げられた「多様性を活かす力」を育むための源泉になっているといえる。
 広報担当の金子さんは「全寮制という形態がより多様性を活かす力を深化させる」と話す。「寮は4人部屋と2人部屋で構成されますが、たとえば国によって『清潔感の基準』が違っていたりする。生活を共にする中で互いを理解するためにどうすべきか考えることができます」(金子さん)
 このことについては、創立者の小林りんさんもインタビューサイトのeduviewの中で「寮生活のなかで、生徒たち自身が様々なバックグラウンドの仲間と寝食を共にし、宗教観などを含めて根本的なところで日常的に意見をぶつけ合うことが大事だと考えています。その中で自分と違う価値観を学び、いかに意思疎通を図っていくかが、多様性への寛容力を身につける上で重要な経験になります」と答えている。

 

ISAK_Dorm

【写真】寮での生活の様子


 3つ目の「困難に挑む力」は創立者である小林さんが最も重視している力だ。eduviewのインタビューの中でも彼女は「変革を起こすチェンジメーカーとなるためには、困難に直面しても決して挫けない精神力を備えていることが大前提になります」と答えている。ISAK設立に向かって幾多の困難を乗り越えてきた小林さん自身がこの「困難に挑む力」の体現者ともいえる。
 ISAKでは、小さな成功体験を積み重ねて自信を身につけることと同じくらい、失敗から学ぶことも貴重な経験であると位置づけ、生徒たちが困難に挑み、その成功からも失敗からも学ぶ実践の場を、全寮制学校のあらゆる場面に散りばめているという。


 UWC加盟校として新たなステージへ
 ISAKは2016年10月、UWC国際理事会から日本で初の加盟校になることが正式に承認された。UWC(ユナイテッド・ワールド・カレッジ、本部:ロンドン)とは、世界各国から選抜された高校生を受入れ、教育を通じて国際感覚豊かな人材を養成することを目的とする国際的な民間教育機関だ。

 原則として1か国に1校で、世界で16校が加盟校として認定されている。ISAKはこの8月に17校目の加盟となる。
 UWCの加盟校になることで、「150か国以上にまたがり活動するUWC国内委員会を通じて選抜される生徒たちが集まることになります。そうなれば、コミュニティの多様性により広がりと深みが増すでしょう。UWCは第二次世界大戦後から、IBとともに国際教育を牽引してきた先駆者としての歴史があり、IBを教える優秀な教員の継続的な確保にもつながります。デイビスUWC奨学金制度を利用できることであらゆる経済状況の生徒に与えられるアメリカにある特定の連携大学への進学機会が与えられるメリットも生まれます」と広報担当の金子さんは期待を寄せる。

 日本国内を見渡すと、人口減社会を迎え、高校自体が飽和状態になりつつある。これからの学校はどうあるべきか。今、あちこちで新しい中等教育の在り方が模索されている。グローバル化が進み、将来的にはAI(人工知能)がさまざまな職業を奪っていくとの予測も、教育現場の危機感を募らせる。そんな中で、ISAKは新しい学校の在り方の「先進事例」であることは間違いない。パイオニアだけにISAKの取り組みを世間の注目を集める。初の卒業生を送り出した今年の6月、同校の「卒業式」をテレビや新聞・雑誌など多くのメディアが取り上げた。


 社会にポジティブな変革を起こしうる人材の育成がISAKの理念だ。そのISAKという学校自体が、既成の学校の枠には収まらない「チェンジメーカー」として日本における新しい学校像を描きつつある。

 

入学試験について ISAKはどのように生徒の選考を行っているのか。

 一次審査では成績証明書、推薦状や論文をもとに総合的に評価して行われる。
 二次審査では面接を行う。面接では学校の理念や方針を理解し、共感できるかどうかが重視される。また、生徒の興味関心事は何か、学校と生徒との相性、全寮生活をしながら3年間ISAKで学ぶ強い意欲と意志があるかどうかなどがポイントになるそうだ。

(編集部=峯岸武司)

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