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【連載】太田中入試から「男女別枠」を考える❸

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【連載】太田中入試から「男女別枠」を考える❸

中学入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2021.11.16 
tags:ジェンダー, 太田市教育委員会, 市立太田, 市立太田 入試, 市立太田 男女別枠, 市立太田 進学実績, 市立太田高, 市立太田高 募集停止

 2022年度の入試から市立太田中学校の選抜の募集方式が男女別枠に変更される。この変更をめぐっては一部の太田市議などからは、見直しを求める声があがっていたが、同校は定員を男子51名、女子51名とする入試に踏み切った。

 ジェンダー平等の流れもあいまって、高校入試などでは男女一括募集が主流になる中、男女別枠入試に変更した深層をさぐる連載の最終回は太田中の今井東校長から話を聞いた。

 

■男女別枠・同数の募集に変更する理由

 今回、太田中の入試で男女別枠・同数の募集に変更した意図について、同校の今井東校長は   

 「他(中央中等や四ツ葉学園)がやっているから、そうしようというのではなく、学校運営を重ねていく中で、男女枠を設けたほうがいいのではないかという話になりました。付け加えて言えば、そもそもその2校と本校は形態の違う学校です。向こうは中等教育学校で、本校は併設型の中高一貫校。よく比べられるが同じ土俵で単純に比較できないと思います」と説明する。

 様々な学校関係者との話し合いの中で、適性検査を受けて入ってくる学校ではあるが、義務教育課程の段階であり、思春期の多感な時期を過ごす上で男女比に偏りがないほうが、健全な成長が望めるだろうというのが結論だったという。

市立太田中・高の生徒募集のポスター(同校HPより)

 

 開校10年の中で、女子の方が多いという傾向はずっとあった。「その比率は年によっても違うし、具体的な数字を公表するのは差し控えさせてほしい」としながらも、男女比に偏りがあると一方の側の発言力が強くなり、バランスの取れた学校運営がやりづらくなると本音を漏らす。学校行事などの決め事をするうえで、自由な発言がしにくい空気が醸成される懸念もある。今井校長の言う「健全な成長」とはまさにこの点だろう。

 「進学実績を上げてくれという保護者もいるとは思うが、生徒主体で知徳体のバランスのとれた子どもを育てたいというのが本校の教育方針です。様々な学校行事や体験を通じて人間性を養えるというのが売りだと思っています」と今井校長。そうした学校運営を進めていくためにも男女の割合に偏りがない環境が理想だという。

 「学力面で女子の方が伸び悩み、男子の方が高校時点で伸びることを理由に男女同数にするということがあったとすれば、それこそ時代に逆行した女性を蔑視した姿勢ではないか」と今井校長は進学実績を意図した制度変更でないことを強調した。

 一部の市議が指摘するように、中学入学時の適性検査で女子の方が男子より高い傾向があることは今井校長も認める。「ただここ数年の推移をみると、男女の平均点の差は縮まってきています」と付け加えた。男女の平均格差がなくなってきたことも、今回の制度変更を後押しした側面があるのかもしれない。

 

■普通科の募集停止の背景とは

 市立太田中・高は普通科と商業科を併設する全国的にも珍しい中高一貫校だ。その点が個性であり、強みでもある。大学進学に傾斜するのではなく、たとえば資格を取って就職に結びつけたいという考えがあれば、商業科への進学も認めている。子供たちの進路選択に幅がある分、成長過程の中で柔軟な対応ができる。同校では毎年中3の夏休みに進路の意思確認のため三者面談を行い、9月までに進路決定をしている。

 前稿で中学を卒業後、別の進学校に鞍替えする生徒がいるという塾関係者の話を紹介した。これについて今井校長は多い年で鞍替えする生徒は4~5名ほどいると話す。ただ大半は部活動の事情によるものだという。中学卒業後、進学校を選択して鞍替えする「腰掛け」的な志願者がでないよう、小学校段階での学校説明会で「そういう意思での入学はやめてほしい」と保護者や生徒には伝えているそうだ。

 高校段階での普通科の募集については、中学から高校に持ち上がらなかった生徒の補充的な意味合いがあった。加えて高校段階で外部の血を入れて、学校の活性化を図ろうという狙いもある。

 こうした経緯を持っている市立太田高・普通科の募集を2023年度から停止する目的についてはカリキュラムを変えてより進学校に舵をきるためではないか、などさまざまな憶測が飛び交っている。今井校長はカリキュラム改編のためではないと否定する。

「中央中等や四ツ葉は中等教育学校用の教科書を使っています。本校では他の公立中と同じものを採択しています。教科書が違う事情も加わって、現時点でカリキュラムを改編することは考えていません。もちろん今後は分かりませんが…」(同校長)

 同校長の話によれば、太田中でもかつて先取り授業をやっていた時期もあったそうだ。その時は、高校からの編入組は入学後に補習などしてフォローしていた。試行錯誤の末、先取り学習を行わず、中学3年間で学ぶ内容をしっかり定着させて、高校に送り出そうという方向に落ち着いた。

 むしろ普通科の募集が停止されるのは、ここ数年、入試で定員割れを起こしている状態が続いていたという側面が大きいという。

「(普通科の高校入試は)募集枠が7~10名と少ないため、仮に倍率が高ければ落ちるリスクが大きいわけです。だから敬遠される傾向にあります。一言で言って受けにくいんだと思うんです」と今井校長は募集停止の意図を説明する。

 

■取材を終えて

 取材当日、この日はちょうど市立太田中・高の「10周年記念WEEK」の最中(さなか)だった。この「10周年記念」を祝して記念ソング「ともに未来(あした)へ」が制作された。記念ソング推進委員11名の生徒を中心に作詞・作曲が行われたという。

 推進委員は自発的に参加したい生徒を募って組織。生徒やPTAから歌詞になるフレーズを集め、推進委員らがプロの音楽家の助けを借りながら一つの楽曲に仕上げたそうだ。

 取材中、今井校長は「生徒主体」という言葉を何度も口にした。生徒が話し合いながら、学校行事などの運営を決めていくのが「太田中」流。実際、そういう場面が少なくない。

 活発な話し合いには「自由な空気感」は確かに必要だ。「生徒主体」という環境を成り立たせるためには「男女同数」というバランス感が重要だという意味がこの「10周年記念ソング」の制作過程に集約されている気がした。一方で、男女の平均点の偏りがなくなったとしても、倍率が一致することはありえない。男女別枠・同数入試で男女の不平等が生じてしまうのも事実としてある。教育の機会均等や平等権の観点から批判が上がるのも理解できる。

 

 連載1回目で話を聞いた四ツ葉学園に長男・長女を通わせている父親の話を思い出した。

「LGBTQやジェンダーフリーの考えが主流になりつつある現代において、生物学上の性に拘泥する入試システムが果たして必要なのでしょうか。一方で、男女別枠を設けることは学校運営上、やむを得ないとする考えも理解できるため『正しい答え』に至るまでにはまだまだ議論と時間が必要だと考えます」

 男女別枠か男女同枠か。どちらの制度が理想なのか。その問いに「正しい答え」はない。あえて、そこに糸口を見出すとすれば、互いの立場を尊重する姿勢を土台に議論しなければいけないということだろうか。社会でジェンダー問題を議論していく難しさがあることを痛感する取材だった。

(編集部=峯岸武司)

 

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