ホーム

»

学校ニュース

»

【連載】太田中入試から「男女別枠」を考える❷

学校ニュース

一覧はこちら

【連載】太田中入試から「男女別枠」を考える❷

中学入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2021.11.16 
tags:ジェンダー平等 入試, 中央中等教育学校, 四ツ葉学園中等教育学校, 市立太田 募集停止, 市立太田中, 市立太田中 入試, 市立太田中 男女別枠

 2022年度の入試から市立太田中学校の選抜の募集方式が男女別枠に変更される。この変更をめぐっては一部の太田市議などからは、見直しを求める声があがっていたが、同校は定員を男子51名、女子51名とする入試に踏み切った。

 ジェンダー平等の流れもあいまって、高校入試などでは男女一括募集が主流になる中、男女別枠入試に変更した深層をさぐる連載の2回目は学習塾関係者から話を聞いた。

 

■市立太田普通科 高校入試での募集を停止

 今年8月18日の太田市議会・市民文教委員会で、2023年度入試から市立太田高校普通科の募集を停止することが市教委によって報告された。

「外形的にみたら、進路実績をあげるための布石じゃないかと思いますね。太田中から持ち上がらずに前女とか他の学校に鞍替えしている生徒も毎年数名はいますしね。高1で外部の子の流入がなくなれば、授業の進度を足止めする必要もなくなるので、内部生も外に出にくくなりますよね」と太田市内大手塾に勤務するAさん(40代男性)は話す。

 

 太田市役所

 

 別の塾関係者からも話を聞いた。

 

 太田市内の学習塾で同校の生徒を指導している厚木貴俊さん(仮名・40代男性)は、講師歴20年以上のベテランだ。現在、中高生を対象に主に理系科目の指導を担当している。

「教室には教えている子もいるし、お話しする内容が多少ジェンダーに絡んでいたり、市立太田への辛口な内容もあるので…」と匿名を条件に取材に応じてくれた。

 その厚木さんもAさん同様に高校入学組が太田中・高のカリキュラムの足かせになっていると考えている。

「現状、太田中では高校入試がないため、中3の12月から3月まで学習が停滞しがちです」。

 厚木さんによれば、中3の3学期は復習中心で先に進むことはほとんどないという。その背景に高校からの外部入学組の存在がある。

「もし足止めしているのだとするならば、進度をもう少し緩やかにして、生徒がつまづきやすい単元にもっと時間をかけるといいのにと思っています」。

 高校からの外部入学組の募集が停止すれば、6年間一貫したカリキュラムがデザインでき、一貫校のメリットを生かせるはずだ。「中3の12月くらいから、高校内容の学習を進めることで、受験がない停滞感を払しょくできるのではないか」と高校(普通科)の募集停止に期待を寄せる。

 

■男女別枠入試と普通科の募集停止は関係がある?

 前稿でも触れたが市立太田中の入試では男子より女子の入学者がやや多い傾向にある。男女同枠で入試を行っているためだ。来年度入試から、その同枠をなくし、別枠同数(男子51名女子51名)の制度に変更される。

 太田市内の塾経営者(50代女性)は高校進学後、勉強よりも遊び優先になってしまう同校の女子生徒の姿を見てきた。だから、今回の制度変更は大学進学実績を意識してのものではないかと推測している。

「太田中が男女別枠にしたのは、高校に進学してからの女子の学力の伸び悩みが改善しないからではないですか。中央中等とか四ツ葉みたいに学校側はなんとか大学進学率を上げたいのではないんですかね」と話す。

 実際、県内の公立一貫校の大学進学率(令和2年度)を比較すると、市立太田高(普通科)は80.2%、中央中等96.6%、四つ葉学園91%。他校に比べ、幾分割合は下がる。そして、中央中等と四ツ葉は開校以来、男女別枠での募集を行っている。もちろん、そのことが進学実績に影響を及ぼしていると短絡的に結び付けるつもりはない。

 ただ、男女別枠は時流に逆行する制度であるにもかかわらず、実績を上げている2校の制度に追随する形をとることが、「何か意図があるのではないか」と思わせていることは否めない。その解の一つとして「大学進学の実績」というキーワードをあげる塾関係者は少なくない。

 このあたりのことを、厚木さんにもぶつけてみた。

 「男女同数の入試と大学進学の実績との因果関係は分かりません。ただ男女の学習における特徴はあると思います。ジェンダー平等が進んでいる時代に、こういう意見を言うと問題になってしまうかもしれませんが、性の違いが勉強の取り組み方の部分でも差異として現れる気がします。もちろん、差別的な意味合いではなく、それぞれの性の持つ特性の部分での話です。私は全ての生徒を見ているわけではないので、印象論と言われればそれまでですが、中学段階では男子よりも女子の方が順位が良いという傾向はあります。それは、女子の方が安定的にコツコツと継続して勉強する力に秀でているからだと思います。一方、男子は瞬発力があります。たとえば、数学が『面白い』と感じると、自分でどんどん進み、学校の授業レベルを勝手に超えていきます。こういう子は男子の方が多いように感じます。中学時代にはコツコツと継続することで力をつけていた子は定期テストレベルで満足してしまっているケースも少なくありません。そのコツコツ型は女子の方が割合としては高い。結果、高3の模擬テストの結果で女子が男子に抜かれてしまうという現象が起きてしまいます。もちろん、この傾向は市立太田だけのものではなく、市内の進学校でも同様です。実際、太女の理系科目の全国偏差値は50を下回ることもありますから」

 

■厚木さんが市立太田生に感じること

 もちろん、進学実績が学校を評価するすべての尺度ではない。だが、大学受験という切り口で切り取ってみると、厚木さんは他の進学校の生徒にあって、市立太田の生徒にないものを感じることがある。それは日頃、様々な高校の生徒たちを相手に大学受験指導を行う中で思っていることでもある。

 「高校受験を経験していない生徒は悪く言えば『ぬるま湯』につかった状態で高校3年を迎えます。例えば太高・太女・桐高は大学進学者のうち50%程度が国公立に進学します。これに対し、市立太田は30%程度です。もしかすると、高校受験を経験していることが、大学受験に対する意識や準備を始めるタイミングに影響を与えているのかもしれません。その意味では、(市立太田高は)高校に入った時点での進路指導をもっと早めにした方がいいように思います」

 一方で、6年間をほぼ同じメンバーで過ごすため、他の学校以上に生徒同士の仲がいいのも特徴だそうだ。

 「たとえば、友達が〇時間勉強するから、俺も同じくらいやるといった仲間意識があります。実際、指導の面でも一番頑張っている同校の生徒を徹底的に褒めると、他の生徒も同じくらい頑張ってくれる。逆もあって、友達がやっていないから、俺もまだやらないという悪い連帯意識も働きやすいですが…」

 こうした連帯意識を上手に持っていけば、進学実績もより上がってくるのではないかと厚木さんは思っている。

●●●

 中学入学段階を男女同数にして、高1での外部入学組を停止する。今回の制度変更を外側からながめると、たしかに進学実績を意識した改革に映らなくもない。果たしてその狙いはどこにあるのか、最終回の3回目は太田中の今井校長に直接話を聞く。

(編集部=峯岸武司)

 

連載(1)を読む 連載(3)を読む

ページのパスを確認してください

ページトップへ