公立高校共学化への足跡ー20年の歴史を紐解く(下)
群馬県の公立高校の男女別学校は12校あり、2022年の時点で公立高校の別学率の割合は全国1位だ。
そんな中、県教委は「高校教育改革推進計画」の中にSDGsの観点から男女共学化の推進を掲げ、今後、共学化を進めていく方針を示している。
山本知事は共学化について「一律に一気に共学化してしまうといった乱暴で強引なやり方ではなくて、大きな時代の流れを踏まえつつも、地域の実情も考えながら進めていくという方向性」であると強調した上で、「(ジェンダーの平等など)世界的な動きを見ても、大きな流れとしては共学化に行くんだと思います」と本紙の取材で語った。
ここ数年になってようやく議論され始めたかのような印象を持つ「共学化」だが、歴史を紐解くと本県の共学化に向けた歴史は実は短くない。
群馬県内における公立高校の男女別学化運動の歴史を「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」代表の坂本祐子氏に話を聞いた。
■県教委の動き
「公立高校男女共学を実現する会」が産声を上げた前日。2000年1月21日、県教委にも大きな動きがあった。
この日、県教委は「生徒数の減少に関連した公立高校の統廃合」や「中高一貫校の設置」、「男女共学化」などを検討する委員会を発足させる予定であることを発表した。
2000年5月には19人の委員で構成される「群馬県学校教育改革推進計画策定委員会」を立ち上げ、委員会内に2つの専門部会が設けられた。
第1専門部会は「高校の適正規模・適正配置、高校の通学区域」、第2専門部会は「男女共学」を検討課題に掲げた。
両部会は4回の会議でそれぞれの課題について話し合い、その結果を委員会に報告し、委員会はそれを受けてさらに検討を重ねるという流れだった。
8月2日に開かれた第2専門部会の3回目の会議に向け、県教委が共学化に関する「基本案」を示した。この基本案は新聞でも大きく取り上げられた。
朝日新聞(2000年8月3日付=下の写真)によると、公立高共学化「2002年度から10年で推進」との見出しで、県教委が、23校ある男女別学の公立高校をすべて共学化するという案を第2専門部会に示したことが報じられている。
県教委は共学化するにあたって7つのパターンを挙げた。記事には「前橋高校と前橋女子高校のように、同じ市内にある別学校は、同時に共学」にし、「入試の募集定員に、男女別の枠は設けない」とかなり踏み込んだ内容も掲載された。
県教委(2000年)が案として示した共学化のパターンの案
① 女子校を共学校にする。
② 女子校とほかの高校を統合して1つの共学校にする。
※③以下は同じ市内にある別学校が対象
③ 女子校と男子校を統合して1つの共学校にする。
④ 女子校、男子校の一方を普通科の共学校に、もう一方を総合学科や単位制の共学校にする。
⑤ 女子校、男子校の一方を普通科の共学校に、もう一方を総合人文、環境科学、芸術、スポーツといった多様なコースを設ける共学校にする。
⑥ 女子校、男子校の一方を普通科の共学校に、もう一方を普通科系の専門学科(理数科・国際科・芸術科など)を設ける共学校にする
⑦ 女子校、男子校をそれぞれ普通科の共学校にする
「(県から具体的な案が示されたこともあり)共学化は近いうちに実現するだろうという見通しをもって『実現する会』は発足したんだと思います。短期的なプロジェクトチーム的なイメージで動き出した感じですかね。それが20年以上も続いている状況なんです」
ぐんま公立高校男女共学を実現する会の坂本祐子代表は会の歴史をこう振り返る。
22年前、23校あった別学校は12校に減少したものの、依然、別学率は全国1位である。この歳月の長さが共学化を進めていくことの難しさを物語っている。
■「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」の坂本代表インタビュー
現在、「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」は中心メンバーになる世話人が16名、会員数は143名(2022年1月時点)だ。坂本祐子さんは4代目の代表。同会初の群馬の別学校出身の代表でもある。
「私自身は女子校が嫌だったとかネガティブなところから入ったわけではなく、むしろ女子校の方がいいと思っていたし、楽しい思い出もたくさんあるんです」と坂本さんは別学校の持つ良さにも理解を示す。
彼女が別学校の存在に疑問を持つきっかけになったのは大学院のときだ。
「指導教官が社会学の専門で行政の男女共同参画社会の審議会によく連れて行ってくれたんです。そのときに性別で分けられてきた慣習や制度に対する理不尽さや不平等さを学びました」。
社会の中でSDGsが一般化し、ジェンダーの問題に対する理解も深まってきている中で、男女共学化についての関心も高くなっていると手応えも感じている。最近も県内のある男子校の新聞部の生徒からこの問題に関する取材を受けたそうだ。
「その子たちは、(男子校と)分かって入学したものの、入学後、やっぱり女子がいたほうがいいと思っているみたいで、子どもたちの間でも昔に比べて認識が変わってきていると感じました」(坂本代表)
昨年10月29日、「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」として県知事に要望書を提出した。知事宛の要望書は数回にわたり提出してきたが、知事と直接面談して提出したのは初めてのことだ。
坂本代表は「(山本知事は)女性の部長の登用も積極的にされていますし、パートナーシップ条例の制定を進めるなど、ジェンダー平等に理解のある知事だと思っています」と期待を寄せる。
要望書では、「私学ではなく公の制度である公立高校が特定の性別の生徒にしか受験・入学の資格を与えないのは不適切であり、是正が必要であること」や「男女共学化を進めるにあたり、形式的、制度上だけではなく、名簿の順番や制服のあり方や進路指導の内容など実の伴ったものにしてほしいこと」などを盛り込んだ。
【写真】要望書を提出する「ぐんま公立高校男女共学を実現する会」と山本知事(県公式twitterより画像引用)
男子校があり女子校があり共学校があるーー学校の形態が多様な方がいいのではという声があることももちろん知った上で、別学校を残すという選択肢は考えていないと坂本代表は明言する。
「あくまで『公立』高校なので男女平等・機会均等に矛盾する別学の選択肢があってはいけないと思うんです。今、願書に性別欄がなくなっています。そこで性別を問うていないのに、入学資格に性別による区分があるのはおかしな話で、LGBTQへの配慮という観点からも共学が望ましいと思いますね」
(編集部=峯岸武司)