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記述問題が減った!? 公立入試の「地殻変動」の背景を探る

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記述問題が減った!? 公立入試の「地殻変動」の背景を探る

高校入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2022.05.18 
tags:エデュケーショナルネットワーク, 公立高校 入試問題 変化, 群馬県 公立 入試, 茨城県 公立入試, 茨城県 公立入試 記号, 茨城県教育委員会

2022年度の茨城県の公立高校入試で前年と大幅に出題形式が変更された。その背景を関係者の取材で読み解く。

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 今年度の茨城県の公立高校入試問題を見て、太田市内のある塾講師は目を疑った。記述の出題が多い公立高校の入試問題がほぼ記号で答える問題だったからだ。

「茨城は極端な例ですが、群馬県の公立入試問題も例年に比べて記述問題が減った印象があるんですよね」とその講師は話す。

 実際に公立入試の出題傾向に〝地殻変動〟があったのか、その周辺を探った。

 

茨城県の公立入試が「記号問題」中心になった背景

 もともと茨城県の公立入試問題は決して記述の出題が少ないわけではなかった。なぜこんな事態になったのか。この背景として茨城県教育委員会の担当者は「昨年度、大規模な採点ミスがあり、その再発防止の観点から出題形式を変更した」と説明する。この大規模な採点ミスは教育関係者の間で「茨城ショック」とも呼ばれている。

 確かに記号問題が多くなれば、採点ミスは起こりにくくなる。ただ、2021年度入試と比較しても、その変貌ぶりは極端だ。

 

(PDFで見る) 2021年度 社会(茨城)      2022年度 社会(茨城)

 社会について言えば、用語を書かせる問題が「インフレーション」「プランテーション」の2問。いずれもカタカナで答えれば済む問題だ。漢字を使う必要もない。そして、驚いたことに、この2問以外はすべて記号問題だった。

 これほど極端に振れてしまった事情について、入試問題の分析に定評のある株式会社エデュケーショナルネットワーク(東京都千代田区)のR&Dセンター アナリストの向井菜穂子氏は、「採点ミスの防止策の一環として、県教委が受験生全員に解答を返却したことが影響しているのではないか」と推測する。

 「(茨城県は、入試後の答案について)今年度、不合格者には答案の写しを郵送し、合格者には合格発表の手続きの時に答案を返すシステムを採用しました。こうなると入試後、この解答ではダメなのかといった照会や問い合わせで混乱する恐れがあります。推測ですが、答案を返却するとを決めたことも、記述を減らした理由の一つではないかと思います」(向井氏)

 

 記号問題が増えた結果、入試問題自体が易しくなってしまったのではないか。

実際の平均点を見てみると、国語が78.05点(昨年比+14.4点)、社会は61.48点(昨年比+5.29点)と上がったが、理科や英語は下がり、数学はやや上がった。

 県教委の担当者は「(結果の分析は暫定的だが)全体としては前年に比べて大きな変化はなかったように思う」と説明する。「(記号問題が増えたといっても)思考力・判断力・表現力を測れる工夫をした」という。

 しかし、今年の茨城県の公立入試問題に対して、別の教育関係者(匿名)は「国語の作文も英作文もすべてカットでは表現力も見られないし、選択肢の作り込みにも即席感を感じました」と異を唱える。

 

 では、来年度の茨城県の公立入試は今年度の出題形式を踏襲するのだろうか。

「思考力・判断力・表現力を観点に掲げた新学習指導要領により方針を合わせていくと考えられるため、国語の作文や英作文は出題していく方向になると思います」と向井氏は予想する。

 実際、この点について茨城新聞(4月26日付)は「受験者の表現力を見られる出題をどうするかが課題」という森作教育長の認識を報道した。

 みんなの学校新聞の取材に対し、県教委担当者は「記述問題を出題する方向で検討をしている」ことを明らかにした。今年度の大幅な出題形式の変更は事前に受験生に告知されていなかったが、来年度については、形式などの変更があれば、夏頃に県教委から概要について発表される予定だ。

 

群馬県や他の公立入試はどうだったのか?

 茨城県ほどではないが、群馬県の公立高校の入試問題も前年に比べて減少している教科もある(下表)。

 全国的な傾向としてはどうなのか。

「社会の記述問題でいうと今年は1県平均6.4問でした。昨年は6.9問だったので、0.5問減少したことになります。問題数にすると全国合計で24問程度減った勘定になりますが、茨城で20問減少しているので、実質全体としてはあまり変わってないのでは」と向井氏は分析する。

ただ地域を絞ってみると、静岡県や群馬県など関東近県は記述問題が減っている傾向にはあるようだ。一方で、新学習指導要領の改訂や入試制度の変更の影響もあり、北海道など以前より記述が増えている地域もある。

 関東近県で記述がやや減少した背景には、「茨城ショック」が多少なりとも影響しているのかもしれない。

 

 教職員の「働き方改革」の観点から言えば、短期間で正確な処理を求められる入試の採点は非常に負担が大きい。その意味でミスを誘発しにくく、迅速な採点が可能な記号の問題を増やすことには採点する側、される側双方に利点もある。一方で、「思考力・判断力・表現力」を観るという意味では、記述形式の問題を出題することも不可欠だ。その解決のカギを握るのはデジタル化なのかもしれない。

 茨城県教育委員会は4月25日、光学的文字認識(OCR)を使った「デジタル採点」を導入することを明らかにした。

(編集部=峯岸武司)

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