常磐高校、「Tプロジェクト」始動3年ー結実した宿願の東大合格
「東大合格者が出たことで、在校生の自信にもつながっています。生徒の学校への帰属意識も上がりました」。
常磐高校(太田市飯塚町)の入試広報部長で昨年まで特別進学コース主任を務めた北爪義一先生はこう切り出した。
開校から110年の長い歴史をもつ同校から2024年、初の東京大学の合格者を出した。数年前から難関大学に合格できるようなカリキュラムを設け、全校をあげて進学実績の向上に向けた取り組みをしてきた。これまでも大阪大、東京医科歯科大、筑波大などの難関校の合格者を輩出してきたが、東大までは届かなかった。
「過去5年でみると特進コースの大学進学率はほぼ同じで90%以上が四年制大学への進学を決めています。そのうち、国公立大学が50%くらい。この割合は例年同様です。ただ大学の内訳でみていくと難易度の高い大学への合格者がここ数年増えてきています」(北爪先生)
【写真】昨年まで特別進学コース主任を務めた北爪義一先生
【写真】校舎に張り出された「祝合格 東京大」の掲示
同校では5年前に赴任した塚越貴之校長が「東大合格プロジェクト」を立ち上げた。塚越校長は公立進学校で校長を歴任し、数多くの東大合格者を送り出してきた。「公立進学校だけでなく、私立の常磐高校からも東大に行ける。そういう選択肢を示すことで、太田市や東毛地域全体の利益につながるから、先生たちにはぜひ頑張ってほしい」。こんな校長の掛け声から同プロジェクトはスタートした。
とはいえ、東京大学に合格させるノウハウがあるわけではない。プロジェクトに関わった北爪先生は「試行錯誤しながら3年間やってきました」と感慨深そうに振り返った。
同校の入試の中でSS特待が最上位ランクに位置付けられている。プロジェクトが立ち上がり、入試要項には掲載されていない、さらにその上のT特待というランクが設けられた。この特待制度は「東京大学合格プロジェクト」に賛同して合格してくる生徒のためのものだ。条件は中学校の成績が1位で東大合格を本気で志す生徒。これに賛同してくれたのが、今年東大に合格した女子生徒だ。東大合格プロジェクトは彼女1人で動き出した。
「当時、東大合格の実績はなかったのですが、ぜひ常磐でやってみたいという気持ちで入学してくれました」と北爪先生は振り返る。
同校の教育活動は「最後まで面倒見るという精神で生徒と向き合おう」「生徒の夢の実現のために我々が最後まで面倒を見ていこう」という点に重きを置いている。特別進学コースも1学年1クラス20人前後の少人数制で編成される。入試の結果、合格ラインを超えた生徒が40名を超えた場合はクラスを2クラスに増設する。こんなところにも同校の「面倒見のよさ」が現れている。
「大人数の中で揉まれて伸びる子もいれば、少人数の中で個々の習熟度に沿って見てもらえる方が伸びるという子も一定数います。生徒と先生の距離が近い分、分からないところを質問しやすい環境です。悩みも相談しやすいですしね」と北爪先生は胸を張る。
これだけでも十分きめ細かいが、同プロジェクトでは通常のカリキュラムに加え、東大合格に必要な様々な指導を行い、学校が全面的にサポートした。
【写真】彼女が先生のサポートを受けながら作成した東大合格に向けての年間計画
「もちろん学校側のサポートもありますが、何より目標に向かって努力してきた彼女の頑張りの賜物です。そして、その頑張りは他の生徒にも好影響を及ぼしました」と北爪先生は話す。
入学式の新入生代表挨拶の中で「3年後、東京大学に現役合格します」と宣言をして、彼女は実現すべく何事にも前向きに取り組んだ。勉強面だけでなく、部活動では軽音楽部に所属し、昨年、鹿児島で行われた総文祭(全国高等学校総合文化祭)では群馬県代表として出場を果たした。また、生物学オリンピックで銅賞に入るなどの活躍をしてきた。
「有言実行というか、そういう姿を周りの子たちが見て、他の生徒もいい刺激を受けました。彼女が東大を目指すんだったら、自分も頑張れるんじゃないか。自分もやってみようという相乗効果が生まれました。ある意味でインフルエンサー的な存在でした」(北爪先生)
学校の取り組みに生徒が呼応する形で難関大学への合格比率を押し上げていった。
1人から始まった東大合格プロジェクトは現在3期目。実際に「有言実行」したことで、学校内の空気も変わりつつあるのを北爪先生は感じている。「生徒や教員の間には自信が生まれました。この空気を維持しながら2期生、3期生へとつなげていきたいですね」と思いを語った。
(編集部)