【教育コラム】「一斉指導」からの脱却(前編)(NEXTAGE SCHOOL 髙澤 典義)
みなさん、学校の授業といったらどんな風景を思い浮かべますか?
その思い浮かべた風景を”一斉指導”と言います。一人の先生が大勢の生徒と対面して行う授業です。今回は、教科指導の方法の一つである一斉指導についてお話をしていきたいと思います。
|ガラケーと一斉指導の共通点
教職はブラックだ、改革が必要だ!そう叫ばれています。改革と言っても何をどう改革するのか?
そう考えた時、業務を一つひとつ見ていき、必要なもの、そうでないものとに分けて考えて、不要なものについては、そのあり方をじっくり考えることが必要だと考えます。
一人の教員が一つの学級に向けて教員主導で行う一斉指導。私は、これのみで行う授業は時代遅れだと考えています。
時代遅れと言えば…よく例に挙げられるものとして「ガラケー」があります。電話をかけるという1番の目的に対して1番わかりやすいという長所をもつガラケー。でも、実は電話という手段自体が相手の時間を奪ってしまうという点でビジネスの世界をはじめ、世間ではあまり受け入れられなくなりつつあります。相手に何かを伝える手段としては、間違ったものではありませんが、相手の状況を察して行動することができないという点でガラケーと一斉指導には実は共通点があります。
古くから効率的に学校運営を行うために用いられてきた手段で今なお残るものは数々ありますが、今回取り上げる一斉指導は現代においてあまり効率的とは言えません。
一斉指導、これについては当然私が教員になった20年前から、いやもっともっと前から存在しており、あまり大きな変化を遂げずに同じ方法で授業が行われてきました。以後、グループ学習なども重視するようにされてきましたが、その実ほとんど姿を変えず、現在もなお行われています。
そんな一斉指導については大きな違和感を持たれることなく、脈々と継続されています。
教員の長時間労働は、いろいろなところで議論されています。毎日最大6時間行われる一斉指導は、疲弊し、不平を増大させている教員のメンタルを支える上でも大きな負担となっているものとしてお話しできる上に、個人的に改善の余地があるものだと考えているので、あえてここで取り上げさせていただきます。
誤解しないでいただきたいのは、今回は、一斉指導がなくなった方がいいというような主張ではなく、リノベーションをする必要があるといったニュアンスですので、そこはご理解ください。
まずは、一斉指導というものについて整理していきます。
|一斉指導のはじまり
一斉指導のはじまりは、100年以上前の明治維新からと言われています。
それまで庶民は寺子屋か私塾での個別指導が一般的でした。
ところが、明治維新が起こり、国民皆学を目指して学制が発布され、皆が学校で学ぶようになってから、西洋に倣って効率化を優先する一斉指導の形式に変わりました。ただ、一斉指導には次のようなメリットもあります。
|一斉指導のメリット
教科指導の一斉指導のメリット ①効率的 ②確実に進む ③互いを意識
では、それぞれを詳しく見ていきましょう。
一斉指導のメリット① 「効率的」
同じ内容を多くの子どもに伝えるのは一斉指導が効率的です。
これが一斉指導の1番のメリットです。
かつてはこの教授法で国の生産性は向上していました。
50年ほど前の高度経済成長期の工業化社会ではモノを大量生産することでビジネス・国が成り立っていました。
そのため、組織から決められたことを素早く正確に、効率的に処理する能力に長けている人が評価され、その能力で一生仕事ができるモデルが成り立っていました。
よって、学校教育においても、大量の知識を習得して問題を早く正確に解くことが重視されていました。
その学校の勉強で養った能力で、その組織でも仕事ができていたのです。
メリットの1つ目は、効率的という点でした。かなり大きな部分なので、歴史的背景を踏まえて説明をさせていただきました。ここからはサラッといきます。
一斉指導のメリット② 「確実に進む」
メリットの2つ目は、確実に進むという点です。
教師が一方的に話すことが多くの場合その中心となっているため、ペース配分を教師ができるという点です。
教師がどんどん進めていけば、学習はどんどん進んでいくこととなります。同じ内容を多くの子どもに伝えるのは一斉指導が効率的です。
一斉指導のメリット③ 「互いを意識」
メリットの3つ目は、互いを意識できるという点です。
先生からの発問に対し、答える子、答えない子(答えられない子)、お互いの様子が見えるので、自分の立ち位置を理解できるというメリットがあります。一人だとサボってしまいたいようなモチベーションの時にも、みんながいて頑張っている仲間の姿があると、自分も頑張らねば、そんな気分になれます。集団の力が働くというのはメリットです。
続いて、デメリットを挙げます。
|一斉指導のデメリット
一斉指導のデメリットは、①エネルギー ②個に寄り添えない ③代わりがきかないです。
一斉指導のデメリット① エネルギー
まずは、教員の”エネルギー”という点です。
一般的な一斉指導の授業では、授業者は、かなりしゃべります。
それだけしゃべるには、それだけの知識と準備が必要です。
教材研究をして、自らの指導力でもって子どもたちをひきつけ、わかる授業を展開しなければなりません。
その準備、そして授業中の労力は莫大です。
この点がデメリットの一つ目です。
一斉指導のデメリット② 個に寄り添えない
2つ目のデメリットは、”個に寄り添えない”です。
30人以上の児童生徒を一人の教員で指導しなければならないので、個に寄り添うことが非常に難しいということです。
誰か一人を相手にしていると、当然その他多くの児童生徒は学習が停滞してしまうことになります。
よって、寄り添いたくても寄り添えない、また寄り添おうと思うと、別に時間を設けなければならなくなり、これも負担となってしまいます。
一斉指導のデメリット③ 代わりがきかない
3つ目のデメリットは、”代わりがきかない”です。
一斉指導の場合、授業者によってその展開方法にかなり個性が出ます。
担当が体調を崩してしまい、代わりに授業しようとすると、これまでのやり方と随分違うので、子どもたちを戸惑わせてしまいます。
そういったことがわかっているのでなかなか休むこと、代わってもらうことができません。
代わりがきかないという点は、もはや当たり前となっていますが、実は大きなプレッシャーです。
ということで、ここに挙げただけでも一斉指導をめぐってザックリですが3つのデメリットが存在していることをご理解いただけましたでしょうか。実際は、もっとあるでしょう。
「先生は忙しい、忙しいと言っているけど、一体何がそんなに忙しいの?」に対する答えとして、この一斉指導の授業のように、事象としては一つなんだけど、実際の負担が複数にわたるという現実があります。忙しさはこういったことの積み重ねからくるように思います。
そして、この一斉指導については、その歴史があることも含めて変化が見られませんでしたが、これについては少しずつ価値観とともに授業形態に変化が見られています。それでもなかなか授業のあり方を転換するにはそれはそれで労力がいるので、あまり大きな変化とはなかなかいっていない現状です。
授業改善は、実は教員の負担感を和らげる一定の効果はあると考えています。忙しさ、疲労感に苦しむ先生方の負担を和らげることができます。
授業、これは本分です。しかし、現実問題この本分に対してさえ、他の仕事が忙しく、十分な力が注げず、注ごうと思えば身を苦しめるような状況です。
毎日毎日の教材研究、一つひとつは小さな負担でも(人によっては大きな負担ですが)、積み重なると、非常に大きな負担になるのです。一斉指導については、毎日の大きな負担というパターンです。これが実は、教員の大きな負担感を生んでいるのではないかと思います。
と、実はここまでは前提のようなもので、本当に言いたいことについては、次回お話していきます。
主宰 髙澤 典義
大学卒業後、18年にわたり公立小、中、特別支援学校において勤務。2015年から3年間在外教育施設(ソウル日本人学校)における勤務を経験。2021年教師を辞め、桐生市にNEXTAGE SCHOOLを開校。