【コラム】『一生懸命』(神子澤修)
中学校時代の思い出です。
入学直後、どの部活動に入部するか迷っていました。そんなある日の放課後、2年生の先輩に声をかけられました。
「何部に入るか決まった?」
「決まっていません」と私。
「なら、吹奏楽部どう」
「音楽に興味ありません。楽器もできないし」と私。
「大丈夫だよ。私たちが優しく教えてあげるから」と音楽室に連れていかれました。
そして渡された楽器がホルンでした。
*ホルンとは、カタツムリのような形をした中音域を担当する管楽器です。
私は、声をかけてくれた二人の女子の先輩が「かわいかった」という理由だけで吹奏楽部に入部する羽目になってしまいました。その二人の先輩は同じホルンパートでそれから先輩が卒業するまで2年間の付き合いが始まりました。
その二人は、普段はとっても優しくてチャーミングな先輩なのですが、ホルンを持った途端に鬼のような人格に変わりました。
毎日厳しい練習の日々、3か月後には高齢者施設への「慰問演奏」が待っていました。部員一人一人が施設のステージに上がり1曲ずつ演奏するのです。私は、曲の途中何回もつまってしまい演奏が続きませんでした。
それでも何とか最後のフレーズまでたどり着き終了しました。すると聴いていた施設の入居者であるお年寄りから万雷の拍手をもらいました。
何故、へたっびの私にたくさんの拍手が来たのかわかりませんでした。私は、おそらく興奮した真っ赤な顔をしてステージをおりたと思います。
あとから顧問の先生から聞いた話です。
「ホルンのあの子は、一番へたくそだった。でも一生懸命さが伝わってきた。だから拍手をした」とお年寄りたちはおっしゃっていたそうです。
『一生懸命』取り組むと誰かが必ず認めてくれる。
今の私を支えてくれている大きな経験となりました。
桐生大学附属中学校 校長 神子澤 修
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