【緊急特集】どうなる定員減 AIと入試改革を結ぶ「点と線」
「国も相当危機感を持っていますよ」。
ある全国紙の記者は教育行政を取材する中で、今回の大学入試改革がこれからの日本の教育にとって大きなターニングポイントになることを肌で感じた。
「従来の受験は迅速に正確に処理する能力を測るための試験です。官僚組織、会社組織の一部として働く人材を輩出する点でこれがうまく機能していた。でも、AI(人工知能)が産業界に浸透していく中で、今のままの教育制度の設計ではまずいということになっています」。
AIが普及すれば、人間に求められる能力自体が変ってくる。「課題解決型の人材を育てるような設計に変えていかなければいけないと、彼らは本気で思っています」。
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AIが人間の能力を超えるとされるシンギュラリティー(技術的特異点)は2045年に起こるとされている。2020年の大学入試改革から25年後だ。ここ数年のAIの急速な進化でシンギュラリティーの到来は俄然現実味を帯びてきている。
「あまり意識されていないかもしれませんが、AIと大学入試改革は実はものすごく関係しています」と既出の記者は話す。
考える力、表現する力をベースに課題を抽出し他者と協働しながら解決していく能力は人間固有の能力だ。次期学習指導要領もそうした資質・能力の育成を目指すものになっている。教育的な成果の価値がシフトしようとしている。
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では、現場はどう受け止めているのか。
埼玉県の公立高校で教鞭をとるAさんは、「大学入学共通テスト」(仮称)の実施方針案を見て、「大学入試改革は、出口の改革なので、高校の授業の質も変わってくるだろう」と感じた。
Aさんの前任校の同僚の教諭は新しい試験の導入を見据えて、社説を100字でまとめさせたり、自分の意見を考えさせたりすることをしているそうだ。Aさんの前任校は県内でも有数の進学校だ。
大学入試改革を頂点として、その変革は高校入試、中学入試にも広がっていくだろうとAさんは予測する。
その意味で、現在の中学3年生は教育改革の荒波の中心に立たされている。2020年に彼らは高校3年になるからだ。新テストの第1世代にあたる。
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「定員減の話は随分前から議論されていましたが、トップ校に手を付けるというのは割と急な印象があります」と太田市内のある塾講師は話す。
推測に過ぎないが、と前置きした上で、「大学入試改革のアウトラインが出された直後に出てきた今回の話は県教委の大学入試改革に対する危機感の表れではないでしょうか」と分析する。
大学入試の新方針が6月中にも策定されるが、今回、県教委も定員減について6月中に結論を出すとしている。「時期がシンクロしているのも気になります。県教委が前橋高校、前橋女子高校、高崎高校、高崎女子高校の定員減を検討していることは、大学入試改革を睨んでのことなのではないか」と同氏は考える。たしかに、大学入試改革の第1世代にあたる現中3生から伝統校の定員を減らすというのは偶然の一致とは思えない。
伝統校4校は早ければ現在の中3から定員減となる可能性もある。いずれにしても来月には明らかになる予定だ。
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前橋市内の大手進学塾の教室長は「ここ数年、受験人口に対して募集定員が多すぎる状況を受験指導をしながらずっと感じていました。(伝統校4校に)合格し進学した生徒を見ていても、学内下位に甘んじている生徒のレベル低下はかなり深刻です」と実情を語る。「進学校」としての一定水準を維持するためにも、定員削減は自然かつ必要な措置だと考えている。
先の教室長は「この結果としてすぐ想像できるのは4校の『倍率上昇』です。あまりの高倍率に願書変更で準トップ校・中堅校への変更が例年以上に進む可能性もあるのではないでしょうか」と指摘する。
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入試制度などのハード面も学習する内容のソフト面も大きく変わっていく中で、教える側の意識も変革を迫られている。
冒頭の全国紙の記者は語る。「従来のやり方に固執している教員は取り残されていくかもしれないですね。今回の教育改革は日本社会の構造変化の文脈でとらえなければいけません」
(編集部=峯岸武司)