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【塾の先生コラム】「前期試験制度」の『問題点』❶(桐生進学教室)

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【塾の先生コラム】「前期試験制度」の『問題点』❶(桐生進学教室)

オピニオン

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2022.09.16 
tags:塾の先生コラム, 桐生進学教室, 業者テスト, 群馬 公立入試, 群馬 公立高校 前期

第1章 「前期試験」の実態

 

 今回の入試を最後にして次回(現在の中2の受験時)からは「前期試験が無くなる」と言われています。このことが話題になると直ぐに、ちゃんと勉強している中学生(塾生)やその保護者の方々からは「よかった」とか「よかったですね」という声が私(塾長)のところに次々に寄せられてきました。

 しかし、善良なる群馬県民の皆さんや真面目に勉強している受験生・中学生諸君もこういう“コトバアソビ?”いや“コトバカクシ”あるいは“政治的詭弁”に誤魔化されないようにしなければなりません。(塾の関係者にはもう既に真実を話してあります)

「前期試験」はなくなりません。

それどころか、「巧妙に隠されて」しまいます。

 令和3年8月20日に公示された群馬県教育委員会の 「群馬県公立高校入学者選抜制度の改善方針」について にはこのように書かれています。

2 新たな入学者選抜制度の概要

 県教育委員会では、入学者選別制度の現状改善し課題の解消を図り、多様な観点から、受検者の優れた点をより積極的に評価する制度とするため、別紙のとおり新たな公立高校入学者選抜制度を取りまとめました。その概要は次のとおりです。

  • 前期選抜と後期選抜で定員を分割している現行の制度を見直し、1回の本検査で全ての定員を選抜する新たな制度を導入する。
  • 新たな制度では、意欲や中学校での活動実績、学校外での活動など受検者の優れた点を多様な観点から積極的に評価する。
  • 全日制過程及びフレックススクールにおいて、全ての受検者に学力検査と面接を課すこととし、1回の本検査で、面接等を重視して多面的な観点で評価を行う特色型及び学力検査を重視して総合的な評価を行う総合型の、2つの観点による段階選抜を実施する。
  • 新学習指導要領に示された資質・能力、学習評価の考え方を踏まえ、思考力、判断力、表現力をより適切に評価できるよう、検査問題の改善を図る。
  • 従来の志願理由書を高校生活のビジョンや学校内外の活動歴を記載する「エントリーシート」として位置付け、全ての受検者に提出を求めるとともに、面接等で活用することを明確化する。
  • 年度を越えて4月に実施している定時制過程の追加募集を、年度内に終了させる。

(本文中の語句の色付け別紙という文字の装飾は筆者による)

 

 これを読んでも確かに「概要」つまりは抽象的な内容なのでまったく頭に入ってきません。きっと何かが「改善」されるんだろうな、くらいにしか考えられません。しかしその別紙にはこのように具体的な内容が明記されています。

2 選抜の内容等

(1)本検査(前期選抜・後期選抜を廃止し、1回の選抜を実施)

 ウ 選抜方法

 全ての受検者を対象に、観点の異なる「特色型」及び「総合型」による段階選抜を行う。 

※ 現行の前期選抜の段階選抜と同様の制度。受験者が「特色型」、「総合型」のいずれかを選択するものではない。

 

   <例:定員200名、特色型50%、総合型50%の高校の場合>

最初に、全ての受検者を対象に、「特色型」の観点で第1段階選抜を行い、100名(50%)の合格を決定する。次に、「特色型」の合格者を除いた受検者を対象に、「総合型」の観点で第2段階選抜を行い、100名(50%)の合格を決定する。

(文字の色付けは筆者による)

 

 この項目の1番目にハッキリと明記されているように、“前期試験が無くなる”のではなくて、現在の「前期試験」と『後期試験』が<一本化>されるのです。これを試験制度の「改善」と呼ぶのであればこれは群馬県教育委員会にとっては確かに都合の良い改善なのでしょう。

 しかし、ここには看過できない人権上の大きな問題が存在しています。

 それは、受験生が「どちらの選抜方法で合格したか、選ばれたのか、一切わからない」という不透明さです。二つの全く基準の異なる『制度』があるのであれば、これまでの「前期」と『後期』のように、選抜方法を選ぶ“権利”は受験生に委ねられるべきであるのに、この権限は「選ぶ側」にしか与えられていません。これは明らかに“民主主義”に反しています。入試制度上の明白なる「秘密主義」です。これは入試制度における「ファシズム」と言っても過言ではありません。

 

 ここで、そもそも「前期試験」とはいったいどのような「選抜制度」であったのか、という地点に戻って話しを進めてゆくことにします。つまり、これまで行われてきた「前期試験」の『実態』について、です。

 

「前期試験」は、これまで多くの中学生や保護者の方々が信じて来たような、「中間・期末対策をバッチリやった」ところで、たとえ「授業で積極的にアピールして内申書を良くした」ところで、たとえ「生徒会役員に立候補して会長や副会長を務めた」ところで、そのほとんどは役に立ちません。(そりゃ多少は役に立つでしょう)

「前期試験」の合格に直結しているのは、何と言っても部活動での「県大会上位入賞」です。つまり、『文武両道』でなければ合格する可能性は決して高くはならない、ということです。

 そして、「前期試験」の合否判断は<中体連>の終結と時を同じくして早くも動き出します。それは「前期試験合格内定」という形で。

 

 以下はウチの塾(とりあえず「進学塾」ですよ)での『父母面談』における保護者との会話です。この『面談』は10月末から11月上旬にかけて実施されます。

保護者A:先生、ウチの子、○○高校からぜひウチに来てくれって言われているんですけど、○○高校に入っても勉強で付いて行けるでしょうか。

塾長:大丈夫ですよ。良かったですね、勉強と部活をみごとに両立させてよく頑張りましたね。おめでとうございます。

保護者A:ありがとうございます。塾長にそう言っていただけると、親としてとても安心できます。

保護者B:先生、ウチの子、△△高校からぜひウチに来てくれって言われているんですけど、△△高校に入っても勉強で付いて行けますか。

塾長:ムリです。それに入塾当初の予定では部活は中学でキリをつけて私立進学校から大学進学を目指すということでしたよね。だから公立高校は考えていないと。

保護者B:でも先生、せっかく△△高校からお呼びがかかったんですよ。前期で取るから来てくれって。

塾長:成績のことは何も聞かれていないのですか。

保護者B:ええ、何も。

保護者C:先生、おかげさまで▽▽高校に入れることになりました。それで、もう今から部活の指導を始めてくださるんですけど、塾と曜日が重なってしまって・・・。だから、塾をやめます。お世話になりました。

塾長:・・・。お、おめでとうございます。

 保護者D,保護者E,保護者F・・・と、エピソードは尽きません。ウチの塾には『文武両道』の生徒がけっこうたくさん在籍しているものですから・・・。

 繰り返して確認しますが、これはまだ2学期中での話しです。当然ですがまだ前期試験の「願書の受け付け」すら始まってはいません。

 

本当に『改善』または『廃止』しなければならないのは「公立高校スポーツ進学内定制度」です。

 

 「前期試験」を隠れ蓑にした、巧妙なこの「非・民主主義的」な行為の裏で、いったい何人の真面目な『受験生』が涙を流した(流す)ことでしょう。

 

 ところで、ウチの塾ではたとえ「前期で合格の内定」をもらった生徒でも、その『情報』は一切他の生徒には漏らしませんし、本人にも保護者にも「緘口令」を発動して情報が学校の同級生などに漏れることを防いでいます。(ある意味ではこの制度の片棒を担いでいますが、これは私の正義には反していません。)

 しかし、この「前期合格の内定」が、ウチの塾の外では今では“公然の秘密”どころか「公言」してしまう生徒も出始めました。そしてこの「公言」は真剣に受験勉強をしている生徒、とりわけ前期試験での合格のために中間期末や学級活動に真面目に取り組んでいる同級生たちの耳を疑わせるものでした。

 ところがところが、実際に前期試験の合格者が発表されるとその「公言」が<事実>であったことが判明し、『入試の公平性』が失われていることに気がつきます。

 ここからは私の推測になりますが、この「入学者選別制度の現状を憂えた「入試関係者」がこの<不都合な真実>を覆い隠すために今回のような「改善」策の導入に踏み切った、と考えています。

「前期試験」は前期試験としての制度や基準が存在しますが、「前期試験の合格の内定を出してはいけない」という条項はどこにも存在していないのではないかと思われます(未確認です)。つまり、禁止されていないものはやっても罪にはならないという「お役所的なご都合解釈」が、まかり通っているわけです。

 それを今回のような「改善策」にすれば、たとえ「スポーツでの前期合格内定」を出していたとしても、実際に合格が発表されたときには『どっちで受かったか分からない』し、『合格発表のタイムラグ』すら発生させずに済むことになります。一挙両得ってヤツです。

「民は由(よ)らしむべし、知らしむべからず」

 <民衆は黙って政治に従わせておくべきで、いちいち政治の内容を知らせるべきではない>

(『論語』での本来の意味はこれとは異なっていますが一般的にはこちらの解釈で通っています)

 

 私の好きなコトバのひとつです。もちろん「逆説的に」ですが。(つづく)

プロフィール

丹羽塾長

<現職>

桐生進学教室 塾長

 

<経歴>

群馬県立桐生高等学校 卒業

早稲田大学第一文学部 卒業

全国フランチャイズ学習塾 講師

都内家庭教師派遣センター 講師

首都圏個人経営総合学習塾 講師

首都圏個人経営総合学習塾 主任

首都圏大手進学塾    学年主任

都内個人経営総合学習塾 専任講師

 

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