お前はまだグンマの交通安全条例を知らない❶ 自転車保険加入義務化編
今年の4月1日から群馬県交通安全条例が改正された。改正の柱は①自転車保険の加入義務化と②自転車用のヘルメット着用の努力義務化だ。
条例改正の背景とポイントを群馬県道路管理課交通安全対策室に聞いた。
🚴自転車保険加入義務化の背景
今年6月、伊勢崎市内の中学校に通う中学2年生のタカヤさん(仮名)は部活の練習で学校から華蔵寺公園への移動中に自転車で事故を起こした。
「AのルートとBのルート、自転車でどっちが早く着くか友達と競争したんです。早く着くことに気が奪われて周りの(交通)状況が見えていませんでした」とタカヤさんは事故当時を振り返る。
細道から大通りに出るところで一時停止せずに渡ろうとして、右から来た車と衝突した。かなり激しくぶつかったが、ヘルメットをしていたことと背中にカバンを背負っていることが幸いして、軽い傷で済んだ。
「無謀なことをした息子が悪いのですが、大したけががなかったのは不幸中の幸いでした。ただ、相手の方の車を結構傷つけてしまって…。30万くらいの修理代がかかると(保険会社に)言われて、自転車保険に加入していた記憶がなかったので正直青ざめました」と話すのはタカヤさんの母親だ。
自分の加入している保険で何か使えるものがないか。自宅で保険の証書を引っ張り出してあれこれ調べた結果、自転車の購入時に保険に入っていたことが分かり、胸をなでおろしたそうだ。
民間団体「自転車の安全利用促進委員会」(東京都)の調査によれば、群馬県の中高生が自転車通学中に交通事故にあった割合は全国で最も高かった。
高校生は調査が始まった2014年から7年連続でワースト1位だ。中学生も2017年を除き、ワースト1位が続いている。
(参考)中高生の自転車事故、群馬が全国1位(2016年1月 本紙記事)
自転車事故の発生があとを絶たないにも関わらず、自転車保険の加入率は決して高くはなかった。
群馬県が2018年9月に実施した「県民アンケート」によれば、加入率32.8%に対し、未加入は56.1%と6割弱にも上った。その一方で、自転車事故をめぐる高額賠償事例が全国的に増加傾向にある。
群馬県道路管理課交通安全対策室の木内室長は「自転車保険加入を義務化する条例の改正の動きはとりわけ2013年に出された神戸地裁の高額賠償判決の影響が大きいですね」と説明する。今回の条例改正の背景にはこうした事情が大きく関係している。
事故は2008年9月、神戸市北区で発生。当時小学5年生だった男子児童が時速20~30キロで自転車で坂道を下っている最中に、散歩をしていた女性に衝突した。女性は跳ね飛ばされて、頭を打ち、意識不明の重体になり、その後、植物状態になってしまったというものだ。
被害女性の家族と保険会社は児童の母親を相手どり、約1億600万円の損害賠償を求めて訴訟に発展した。この訴訟で神戸地裁は2013年7月、事故当時、男子児童がヘルメットを着用していなかったことなどから、「母親が十分な指導や注意をしていたとはいえず、監督義務を果たしていなかったのは明らか」として保護者の責任を認め、約9500万円を支払うように命じた。(神戸新聞2013年7月5日付記事を要約)
🚴自転車保険加入義務化のポイント
では、自転車保険の加入義務化で何が変わったのか。ポイントは次の3点だ。
利用者に対して
自転車保険の加入が「努力義務」から「義務」に。自転車を利用するときは自転車保険に加入しなければならない。未成年者が利用する場合は、保護者が加入しなければならない。
事業者に対して
業務として自転車を利用する場合にも自転車保険の加入が義務になる。
貸付業者に対して
自転車を貸し付ける場合にも自転車保険の加入が義務になる。
県の作成したチラシにも「月々約コーヒー1杯分」と記されているように、自転車保険の保険料は決して高くない。自転車保険の加入は被害者・加害者双方を守ることにつながる。条例改正は「安心・安全」に暮らせる県づくりに向けた大きな一歩ともいえる。
「条例が改正されたこと自体もっと多くの人に知ってもらわなければいけません」(木内さん)。そのため、県交通安全対策室では、県の広報や地元メディアを活用して発信したり、小中高生に対しては教育委員会を通じて学校に周知を図るなどしている。
※グラフは取材をもとに編集部が作成
動画 保険加入義務化を知らせる山本知事のメッセージ
(編集部=峯岸武司)
🚴 次回は「ヘルメット努力義務化編」です。