【インタビュー】山本知事が描く ぐんまの教育未来図(2)
2020年度は「教育改革の年」と呼ばれた。小学校の2020年度実施を皮切りに、小中高の新指導要領が導入され、学びに向かう力、人間性、知識及び技能、思考力・判断力・表現力の3つの力をバランスよく育成することを主眼に置いたカリキュラムに移行した。小学校では英語の教科化やプログラミング教育が導入され、大学入試ではセンター試験から共通テストに置き換わった。いずれもグローバル化、情報化の面での急速な社会の変化に対応した制度変更だ。
こうした国内の教育環境の大きなうねりの中で、群馬の子どもたちの未来の教育はどうなっていくのか。群馬県が描く教育の未来像を山本一太県知事に聞いた(全3回)。
教育イノベーションを推進し、「始動人」の育成
――教育のICT化、DX化が著しく進んでいます。tsukurunは学校外活動の拠点です。たとえば高校が再編された際にICT、DXに特化した学科を新設する計画はありますか?
知事「新しい学科をつくるというよりはまず、教育イノベーションの考えを全県に広げて、『始動人(しどうじん)』(注:群馬県が新たな教育モデルを通じて育成を図ろうとしている新時代の人材像のこと)を輩出できるような土壌を作っていきたいと思っています。
私が知事に就任したときは群馬県はデジタル後進県だった。(現状でいうと)令和2年度で群馬の公立の小中高一人一台PCの導入はほぼ完了しました。計画の5年前倒しを実現しました。これでようやくデジタル教育の基盤が整備されたわけです。時代の流れに乗っていくためにも、デジタルを取り入れた教育をしっかりやっていきたいと思っています。ただあくまでデジタルはその一部分ですが・・・」
――といいますと?
知事「群馬県が掲げた最も重要な施策の一つは『教育イノベーション』です。これを実現するための施策を着実に進めていきたいですね。
戦後、大量生産・大量消費の世の中で、同じ方向を向いた競争で強い人がスポットライトを浴びてきました。たとえば、いい大学に入る、大きな企業に入るとかね。こういう競争に秀でた人が評価されていました。でも、これからはそうではなくて、こんな変化が激しい時代ですから、自分の頭で考えて人が目指していない領域に一歩踏み出すような人材や付加価値を生み出せるような人材が必要だと思うんです。県ではこういった人材を『始動人』と呼んでいますが、『始動人』をつくるためにも『教育イノベーション』をしっかりやって、そういう流れを作っていきたいですね」
【写真】群馬の教育の未来像を語る山本一太県知事(3月25日 県庁)
――具体的には?
知事「STEAM教育もその一環です。STEAM教育に関していうと、株式会社steAmの中島さち子さんに協力をいただいて、吾妻中央高校、伊勢崎興陽高校、長野原高校、嬬恋高校の4校でパイロットプロジェクトを立ち上げてきました。実際、吾妻中央高校を視察した時には、(子どもたちの)プレゼンもすごくよかった。校長先生も子どもたちが以前より『自ら考え行動するようになってきた』とおっしゃっていました。これを、今年度からは全県に広げていきます。これは全国に先駆けた取り組みです」
中島さち子さん(株式会社steAmのHPより) STEAM教育とは 科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・芸術(Art)・数学(Mathematics)の5つ語の頭文字を組み合わせた造語。知る(探究)と創る(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な新しい学びのかたちのこと。 中島さち子さんは経済産業省や文部科学省の教育変革に関わる委員会などに多数所属し、STEAM教育の普及を目指し活動している。ジャズピアニストでもあり、国際数学オリンピックの金メダリストの顔も持つ。大阪・関西万博のテーマ事業プロデューサーの一人でもある。
――STEAM教育を全県に広げる狙いは何でしょう?
知事「STEAM教育を導入することで、いろいろな物事を総合的に捉えられる人材、『始動人』を生み出していければと思います。社会はますます複雑化、多様化してきています。だからこそ、教科横断型の考えを身につけ、地域課題の解決ができる人材を育てていく必要があるし、そこにSTEAM教育の意義があると思っています」
――STEAM教育を全県でというのは素晴らしい施策だと思いますが、現実的な問題として学校現場は大変そうですね。
知事「STEAM教育も教育のデジタル化推進も現場の先生たちの頑張りがないと実現できないと思います。
たとえば、デジタル化推進でも(現状では)やりがいをもってやっている人もいれば、とまどっている先生もいる状況だと思うんですね。この状況を耐え抜いて突き抜ければ、新しいステージが見えてくると思うんです。デジタルを活用した授業というのは、全体を統括する授業と言うよりは個別最適化された学びです。(教育方法の)コンセプトが変換するという意味では、教員側の意識が変わっていくことも必要です。(その意味で)現場の教壇に立っている先生方からするととても大変なことです。だから先生がモチベーションを維持してやっていけるような環境づくりも重要ですし、現場の先生たちを大切にしながら進めていきたいと考えています。また、いまの子どもたちはデジタルネイティブ世代ですから、(施策を進めるにあたって)教育を受ける側の子どもたちの意見も取り入れていかなければいけないのかなとも思っています」
(つづく)
(取材=峯岸武司/撮影=高橋洋成)