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【ルポ】高校に通えなくなって高校に入学しなおした娘と母の1年間(1学期)

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【ルポ】高校に通えなくなって高校に入学しなおした娘と母の1年間(1学期)

子育て

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2024.08.15 
tags:不登校, 不登校気味, 学校に行きたくない, 通信制高校

 現在、群馬県内のある専門学科の公立高校2年生の奈緒さん(仮名)は、中学卒業後に進学した別の公立高で不登校気味になり、高校1年生の1月に退学した。将来のことを悩んだ末、今の高校に入学し直し、現在は充実した高校生活を送る。奈緒さんが高校入学から中退を経て、現在に至るまでの心境を奈緒さん本人と奈緒さんのお母さんと振り返った。

 

「学校に来ていないんですけど、どうしましたか」。

 6月、奈緒さんの通う高校から母親の久美子さん(仮名)の元にこんな電話がかかってきた。朝、いつも通り学校に出かけたはずなのに、どうしたのだろうか。慌てて駅に様子を見に行くと、「電車に乗れなかった」と涙を流す奈緒さんの姿があった。久美子さんが事情を聞くと、奈緒さんの口からは「学校行くのがしんどい」という言葉が返ってきた。

 

 最初は慣れない環境から来るストレスが原因かなと思い、久美子さんは奈緒さんを励ましながら見守った。「行くのがしんどい日はそのまま休んでお母さんと一緒にお弁当を持ってドライブ行こう」と誘ったりしたこともあった。でも、次第に学校を欠席する頻度が増えていった。1学期後半から「週の半分程度」学校を休んだり早退を繰り返すようになった。

【写真】インタビューに答える久美子さん

 

 奈緒さんは小・中学と明るく友人も多く、先生たちの信頼も厚い子だった。「運動も勉強もそれなりにできる方だった」と久美子さんは話す。

 厳しい高校入試を乗り越えて、晴れて合格した高校。ただ、奈緒さんが進学した高校はどうしても行きたい高校ではなかったという。

「将来的に大学進学などの選択肢も持てるし、現状の成績から考えてこの辺りかなというふわっとした感じで決めてしまった」と母親の久美子さんは振り返る。父親は奈緒さんの性格を考えると電車に乗って行く高校ではなく、自転車で通える近くの高校の方がいいのではという考えだった。一方、久美子さんの中には将来の選択肢を広げる意味でもレベルの高い高校に行ったほうがいいという思いがあった。奈緒さんが進学した高校は地元でも有数の公立進学校だった。

 

 電車通学というのも奈緒さんにとっては重荷だった。もちろん、電車通学を楽しんでいる高校生も少なくない。電車の時間を睡眠に当てたり、スキマ時間の勉強に充てたりする生徒もいる。だが、奈緒さんには合わなかった。通学時間が片道1時間程度かかることが想像していたよりも負担になった。「入学前はどこの高校でもそのぐらいかかるし当然と思っていたけれど、今考えると通学時間が長いというのは睡眠や勉強や自分のために使える時間が直接的に削られる原因になることを痛感しました」と奈緒さん。電車で通うということが彼女にとっては無意識の内にストレスをため込む要因になった。

 

 入学してすぐに、奈緒さんは高校生活にも違和感を覚えた。大学進学を目標としている高校なので、授業のスピードも速く、課題も膨大に出される。次から次へと進む授業は問題を解く「作業」をさせられている感じで、学ぶ楽しさが実感できなかった。もともと勉強は嫌いではなかったが、流れ作業のように進む日常になじめなかった。

 「想定していた高校生活とのギャップが大きかったですね。その高校に通っている先輩のSNSや学校見学で見た雰囲気などから『この学校に入れたらこんな生活が送れるのだろう』と期待していたものと、現実の間にかなりギャップがありショックを受けました」と奈緒さんは入学当初のことを振り返る。

 「今でもなぜ、そこまであの学校が嫌だったのかと考えてもハッキリとは思いつかないのですが、とにかくストレスがかかっていたのは事実でした」。そして、学校でのストレスから、課題がこなせず提出できない、結果的に登校しにくくなるという負のスパイラルに陥っていった。

 

 家での様子を見ていた久美子さんも「帰宅して仮眠して早朝3時くらいに起きて、課題をやってそのまま学校に行くみたいな生活をしばらくしていて、寝てないとか、やらなきゃやらなきゃと追っかけられている感じとか、負荷がかかっている感じがすごくしていた」とストレスを抱えやすい生活状況を目のあたりにしてきた。

 奈緒さん本人も「やるべきことをやる気力が湧かず、課題が終わらないまま期日を迎えて出せない、そうするとその教科の先生や担任に『申し訳ない』という気持ちと『怒られるかも』という不安で会いたくなくなる、そのストレスで何も出来ない、学校に行きたくないというサイクルに陥っていました」と当時の精神状況を振り返る。

 

 こうした状態の中で、久美子さんは「課題出さなくてもいいんじゃない。赤点になっても仕方ないよ」と提案したこともあった。久美子さんの心のどこかに別室登校でもいいから卒業してほしいという気持ちがあった。

 でも、奈緒さんはその母親の提案に素直には従えなかった。

 久美子さん曰く、「(奈緒は)人の期待にはちゃんと応えなければいけない。こう言われたら、それに対して自分の答えをしっかり出さなきゃいけないと考えるタイプ」。自分なりの落としどころはきちんとつくった上で相手に返さなきゃいけないという誠実な性格だった。

 実際、奈緒さんが当時「(両親が)高校に入るためにお金や時間を使ってくれたのに、それに相当する成果が出せていないことが本当に申し訳なかった」という思いを抱えこんで苦しんでいた。だからこそ、「頑張らなきゃ」と思って無理をした。

 そして、奈緒さん自身、家族の優しさ、自分自身への無力感で心身共に蝕まれていった。

「家族に対して申し訳ないから、頑張ろうと思っても上手くいかず、自分を責めてもっと申し訳なくなるという負のループでした。他の家族はちゃんと学校や仕事に行っているし…。何も出来ていない自分にも優しく接してくれるからこそ、自分がすごく惨めに感じて家族は大好きだけれど、面と向かって喋りたくなかったのは覚えています」【つづく】

(取材=峯岸武司)

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