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【特集】成長する通信制高校 選抜の早期化に懸念も

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【特集】成長する通信制高校 選抜の早期化に懸念も

高校入試

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2024.12.10 
tags:不登校, 文部科学省, 群馬 広域通信制高校, 通信制高校

自宅からも通えるスタイルで急成長している広域通信制高校。新入の生徒が増える中、入試が早期化し懸念する声もあがる。(写真はイメージです 写真ACより)

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「少子化が深刻化していく中で、私立高校とのバランスを考えても、通信制高校が青田買いのようなことをすることはフェアじゃない」。こう話すのは広域通信制高校に勤務する髙橋教諭(仮名)だ。同氏によれば、いくつかの私立の広域通信制高校で秋口から中3生に合格者を出している実態があるという。

 たとえば、ある高校では10月から毎月1回のペースで4期に分けて入試を行い、各月ごとに合格者を出している。「12月には入試が終わってしまう広域通信制の学校は増えています」と同氏は説明する。

【写真】私立広域通信制高校の入試要項 専願で10月には合格が出る学校もある(写真は学校名を消してある)

 

■コロナ禍で変わった通信制高校入試


 広域通信制高校には本部の高校から業務委託で生徒を受け入れるサポート校がある。通信制高校を卒業するには、レポート(課題の添削)、スクーリング(面接指導)、テスト(試験)を通じて単位を取得しなければならないが、学習を独学で行わなければならないため、途中で挫折しないよう学習面、生活面などを支援する位置づけだ。

 以前はサポート校が内定という形で秋口くらいから合格を出すケースもあったが、「サポート校の入試は塾の入塾と一緒なので、本校の合格は全く別。本校の入試は1月に入ってからやる」(同氏)という流れだった。新入の生徒(中学を卒業して通信制高校に入学する生徒)については公立高の入試が終わった3月に募集するのが一般的だった。

 潮目はコロナ禍だった。不登校の増加傾向はそれ以前からもあったものの2019年以降は増加の一途をたどっている。「(それと)シンクロするように大手資本の通信制高校やサポート校がCMなどを通じて認知を上げ、通信制高校に対する世間のイメージも一変したと思う。新入の生徒は間違いなく増えている」と同氏。

 サポート校に入学するのは時期的な縛りはないが、本校の入試は1月以降に行うという暗黙のルールがあった。それを大手資本の通信制高校が流れを変えてしまった側面があると別の教育関係者は指摘する。

 

■私学協会「非加盟校」が多く配慮なき日程が横行


 入試の時期については文科省が各都道府県教育委員会と知事あてに「高等学校入学者選抜について」(93年2月)という通知を出し、入試は「あまり早い時期に行われないようにする」よう求めている。この通知を受け、各都道府県の私学協会に加盟する私立の学校は公平な生徒募集などを担保するため入試日程などについて「紳士協定」を結んでいるが、広域通信制高校の場合、協会に加盟している学校がほとんどないのが実状だ。私学協会が広域通信制高校に、入試の日程に関して配慮するように求めている自治体もあるが、法的拘束力はなく、各学校の判断に委ねられている。

【写真】文科省が各都道府県教育委員会と知事あてに出した高校入試についての通知

 

■後手に回る行政


 私立の広域通信制高校について、管理監督する行政が後手に回っている側面もある。2018年、ウィッツ青山学園高校(三重県伊賀市、現在は閉鎖)広域通信制課程でテーマパークに連れていき、土産物のお釣りの計算をしたことを数学の履修とみなす不適切な教育が発覚し、問題視された。その後、文部科学省は各校を所轄する都道府県や市町村が指導する際の通信教育運営指針の改定を通知し、指導監督権の強化に乗り出した。

 23年11月、同省は私立通信制高校の認可基準を再整備し、全国の自治体に通知。群馬県でも国の基準にのっとり、審査基準を明確化した。教員が指導できる生徒数の上限を教員一人あたり80人の上限を設定。スクーリング(面接指導)についても1教室生徒40人までの上限規定を設けた。野放し状態だった指導教員についても、添削や面接、試験の評価は各教科の教員免許状を取得している者が実施することが規定された。
 高校本部のある都道府県が運営に関する監査を行うことになっているが、この仕組みに対して、「たとえば群馬に(私立の通信制高校の)本部ができたとして、サポート校を栃木や埼玉に置いたときに、そこでどんなことをやっているか管理できない。非常に不透明だ」と群馬県私立小・中・高等学校協会(私学協会)の野口秀樹理事長は疑問を呈する。

 管轄するのも都道府県によって私学振興課だったり、教育委員会だったりとまちまちだ。監査内容についても財務面や学習内容の調査やチェックは行うが、日程などの入試のルールについては特に規制はない。

 もちろんすべての広域通信制高校が青田買いに走っているわけではない。なかには、出願予約は年内に行うが、実際の入試は翌1月に実施している高校もある。

 

■学びの形の多様化は容認しつつも入試日程には配慮が必要


 10月に群馬県教育委員会が発表した中学3年生の進路希望調査によれば、全日制の公立高校や私立高校などが軒並み前年より志願者を減らす中で、私立の広域通信制高校への志願者数は573人と前年より30人増加した。通信制というスタイルが世間から認知されつつある中で「将来的には(私立の広域通信制高校の志願者は)県内の中3生の約1割程度、1000人くらいの規模にはなるのでは」と前出の髙橋教諭は予測する。

 野口理事長も、学びの多様化の時代に通信制という選択肢ができることには一定の理解を示すものの、「子どもは易きに流れやすいので、入試日程に関するルール作りは絶対に必要だ。紳士協定があるから、子どもの学びの保障や公平な入試が担保されている」と現状の入試のあり方には苦言を呈している。

(取材・文=峯岸武司)

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