【寄稿】埼玉県での男女共学化の議論から考える(ぐんま公立高校男女共学を実現する会)
埼玉県で公立高校をめぐる男女共学化の議論が活発化している。埼玉県の男女別学についての議論について、ぐんま公立高校男女共学を実現する会代表の坂本祐子氏に解説していただいた。
埼玉県では、2023年4月に、埼玉県男女共同参画苦情処理委員に対して「埼玉県立の男子高校が女子が女子であることを理由に入学を拒んでいることについて、女子の入学は当然認めるべき。女子差別撤廃条約に違反している事態は是正されるべきだ」という趣旨の申し入れがありました。これを受けて、苦情処理委員は、同年8月に、埼玉県教育委員会に対して県立高校の共学化に関する勧告を行いました。
この勧告では、「公立学校における公共性をかんがみれば、やはり公的機関が性別に基づき異なった取扱いをなすのは大問題であり、公費で賄われていることも考慮されなければならない」、「歴史や伝統を重視したとしても、共学化しなくともいい理由にはならない」と記されています。
埼玉県では2001年度にも苦情処理委員から県教委に対して共学化を求める勧告が出ましたが、当時は「当面は現状維持」とされた経緯があります。勧告に法的拘束力はありませんが、勧告された側は報告書を出す必要があり、今回はその報告書が2024年8月22日に県教委から発表されました。
今回の報告書では、「男女共同参画社会やグローバル化の進展」など社会の変化に対応するための教育の変革の必要性が書かれ、「男女が互いに協力して学校生活を送ることには意義がある」とし、「今後の県立高校の在り方について総合的に検討する中で、主体的に共学化を推進していく」と結論付けられました。ただし、共学化の具体的な方法や時期は明記されず、「県民の意見を丁寧に把握する必要がある」としています。
今回の苦情処理委員の勧告は、「公共性という視点から考え、公立高校が性別によって扱いを変えているのは不公正」という指摘だったのですが、県教委の報告書でこの点については特に触れられず、「別学校には一定のニーズがあり、共学校も選択できるので、男女の教育の機会均等を確保している」という趣旨の回答しか書かれていません。
共学化をめぐる議論は「別学派vs共学派」のような対立構造としてとらえられてしまうことが多く、それぞれの価値観が正面からぶつかってしまいます。しかし、この共学化をめぐる議論は、本来は、子どもたちの人権、学ぶ権利、教育における多様性といった視点で語られるべきものなのではないでしょうか。
全国的に公立高校の入学願書の性別欄は撤廃されており、埼玉県も例外ではありません。性別は願書に必要な情報ではないのに、性別によって受験・入学を制限していることに大きな制度的矛盾を感じています。「別学は選択肢のひとつ」という意見もよく耳にしますが、選択肢が理由なのだとしたら、工業や商業といった専門高校も別学を選択できるようにしているはずなのに、そうしていません。
もちろん、私は公立高校を男女共学にするだけでジェンダー平等教育が達成できると思っているわけではありません。共学校であっても、名簿の順番や教室の席順、進路指導、行事の役割分担等あらゆる場面で性別を理由に可能性を制限しない教育が求められると考えます。
今回の埼玉県の共学化の議論をきっかけに、公立高校の男女共学化について多くの方に関心をもっていただきたく思います。公立高校の男女別学という制度上の問題点を解消するのみならず、教育における実質的なジェンダー平等が推進されるように希望します。
※本稿は、ぐんま公立高校男女共学を実現する会のニューズレター53号(2024年7月)の記事に一部加筆修正したものです。また、男女別学高校とジェンダーについて、「毎日新聞2024年3月20日掲載『オピニオン論点』」で私見を紹介していただいているので、そちらをご参照ください。
(ぐんま公立高校男女共学を実現する会代表 坂本祐子)