【シリーズ】大人バトン◆絵描きに憧れた娘と酒屋の父のワインの旅②(ワインインポーター・会社経営 金井麻紀子さん)
大人になったからこそ、自分の若い頃を振り返り、若者たちに伝えたいことがある。「今の若い奴は・・・」といった説教なんかじゃない、もっと大切なもの。失敗や成功も含めて未来の若者につないでいきたい心のあり方や生き方。先人たちから受け取ったバトンを次につなぐことで、私たちは歴史を紡いできた。第一線で活躍する「大人たち」からのバトンを紹介するシリーズ「大人バトン」の2回目はワインインポーターであり会社経営者の金井麻紀子さんです。
【写真】ワインインポーターの金井麻紀子さん(カーヴかない屋にて)
撮影・浦島大介
フランス滞在十数年、日本人初のディプロム(ワインの醸造責任者)の資格を持つ金井麻紀子さんは、約300ものワイン生産者の中から厳選して、自分が一生飲み続けたいと思える優良ワインを日本に紹介しつづけてきた。そのワインは「マキ・コレ・ワイン」として親しまれ、国内の数多くの酒屋やフレンチレストランなどから信頼を寄せられている。
昨年、父親の強さんが亡くなり、現在はカーヴかない屋(桐生市)の五代目の店主としての顔も持っている麻紀子さんだが、10代の頃は全く違う未来を思い描いていた。
本当に美味しいワインを求めて
フランスのワインの評価本で評価されている生産者のワインも口にしてみると劣悪なものが相応にあった。本当に美味しいワインを探そうと休日はしらみつぶしにワイナリー巡りを始めた。そして、いつしか、その土地の特徴がワインの味わいに表現されているようなピュアなワインを作っている、まだ発掘されてない蔵元を探したいという思いに変わっていった。
麻紀子さんが探し当てた珠玉のワインを日本に送ると、父親も全く同じ感覚で評価した。こういうやり取りを重ねながら、取引する生産者は徐々に増えていった。まさに父と娘の二人三脚だった。
一方で、生産者とより深い付き合いをするために、もっとワインの専門知識が必要だと思うようになった。美術の夢はいつしかワイン研究家への道と変わった。
1996年ボーヌの国立農業専門学校でワイン醸造から販売まで学び、ディプロムを取得した。「(絵よりも)ワインの方が自分の持っているものを100%表現できて、しかもそれが評価されて、もう面白くてしょうがなくなっちゃったんです。醸造を勉強してるうちに、どんどんのめり込んで来ちゃって」
家業の酒屋を継ぐ気などなかったが、気付いてみたらワイン一色に染まり、醸造とインポーターが仕事になっていった。
父はいつでも私の最大の理解者だった
「マキ・コレ・ワイン」の始まりにはっきりした線引きはない。ただ、麻紀子さんによれば、2002年に上梓した「すばらしきヴィニュロンたち」(モデラート/現在絶版)で厳選27蔵を紹介して以降「マキ・コレ」という名前が付けられたようだ。
「瓶の外側を見ただけではフランス語のラベルで生産者の名前があるだけ。ワインの名前を勉強しても、生産者によって全く味が違うから、どういうワインかよく分からない。だから『マキ・コレ』を手に取ってもらえば、ワインの美味しさにたどり着けるっていう、そういう思いで選んでいます」
まさに父と娘の絆が作りだしたとも言える「マキ・コレ・ワイン」は現在全国の酒販店やレストランで愛され続けている。足利のフリーペーパーminimuで取り上げた記事を麻紀子さんが取引先の酒販店に送ると、奈良と大阪の酒販店から「もっとほしい」と編集部に問い合わせがあった。「マキ・コレ・ワイン」が愛されている証左とも言える。
絵を描く仕事に就きたいと夢に邁進した青春時代。その夢はいつしか父と娘の極上のワインを求める旅に変わっていった。
ラベルをデザインしたり、パッケージを作ったりする仕事は絵を描くことで磨いたセンスが生かされている。夢中になってやったことは決して無駄にはなっていない。
「ファザコンでしょ?」と記者が投げかけると、麻紀子さんは「よく言われるんだよね」と笑う。少し間を空けて、「どうだろ。意外とそうでもないのかな」と真顔で答えた。
最大の理解者であり、愛する父・強さんが他界して一年が経つ。「道をそれた時期も自分にはあったけど、いつでも父は自分を信じてくれていた。だから、今があるのかな」。父から渡されたバトンをしっかり握りしめ、豊饒で上質なワインを求める旅はこれからも続く。(おわり)
プロフィール
ワイン インポーター カーヴかないや社長 金井麻紀子
1973年群馬県桐生市生まれ。足利学園高校(現・白鷗大学足利高校)卒業後、渡仏。ボーヌの国立農業専門学校でワイン造りから販売まで学び、ディプロム(醸造責任者の資格)取得。現在、ワインインポーターとして日本に優良なワインを紹介している。
※本記事はminimuに掲載された「素晴らしきヴィニュロンたちを求めて ワインに魅せられて旅を続ける」を再構成して掲載しています。
(取材・構成=峯岸 武司)