高校化学グランドコンテスト受賞校に聞く(1) 樹徳高校編
第14回高校化学グランドコンテストの最終選考会が10月28日、29日に名古屋市立大で行われた。エントリーは100チームに上り、その中から1次審査を通過した10チームが最終選考会に出場した。
群馬県からはこの最終選考会に群馬高専と樹徳高校が出場。ともに好成績を残した。両校の生徒はいったいどのような研究を行ったのか。実際に両校を訪ね、取材した。
| こんにゃく飛粉を使って高機能なシルクを生み出す
「樹徳の体験入学の時にシルクの研究のことを知り、自分も理科部に入りたいと思っていました」
樹徳高校・理科部に所属し、今回の研究メンバーの一人である高校2年生の林真央くんは、理科部に入部した動機をこう話す。高校入学後、迷うことなく理科部に入部した。
「自分はもともと昆虫に興味があり、特にカブトムシが好きだったんですよ」。そんな林君は現在理科部で部長を務める。
樹徳高校の理科部では代々こんにゃく飛粉を使って何かできないかという研究を進めてきた。こんにゃく飛粉というのは、こんにゃくを生産する際に副産物として生じ、群馬県内だけで年間約4,000トンの飛粉が産出されるそうだ。
こんにゃく飛粉を使ったバイオエタノールの生産の研究はもう10年が経過している。「こちらが最近論文になって一区切りついたので、新たな課題を見つけようということになった」と話すのは理科部顧問の広井先生だ。
3年前、「群馬は絹産業が盛んで、地元の特産品なので、シルクを組み合わせてみよう」という話になった。今回の発表は突発的な思い付きではなく、継続して取り組んできたことの集大成でもある。代々先輩たちがやってきたものを受け継ぐ形で研究や実験を繰り返してきた。こうして完成した研究レポートが「こんにゃく飛粉等による高機能シルクの創出」だ。
「一般的にシルクっていうのは伸びないとか、しわになりやすいといった性質があるんです。そういう本来のシルクの欠点を補完できるという意味で『高機能』シルクなんです」と部長の林くんは説明する。出来上がったシルクは糸の強度があがったり、伸縮性が増したりするそうだ。
繭から糸を作る作業も部員たちで行う。上州座繰り器を扱って糸枠に巻く専門的なこともやる。ちなみに部長の林くんはこの作業の「名人」だ。
「蚕は夏しか飼えないので、研究はなかなか進まないんですよ。1年中できるわけではない」。指導にあたった理科部顧問の広井先生は研究の大変さを語る。
| チームワークが自慢の樹徳高校理科部
樹徳高校理科部は現在、3年生を含め54名が在籍する大所帯だ。1年生は顧問の先生や先輩たちに指示された実験を行いながら研究の「いろは」を学ぶ。2,3年生になると自分で実験を計画し、実験ノートの書き方から、データのまとめ方、プレゼン能力まで身に着けていく。
「1つの課題に対して、部員たちがお互いにコミュニケーションを図りながら、チームで協力しながら取り組みます」(広井先生)
実験室に閉じこもってばかりではない。尾瀬や富士山に出かけ、自然に触れ合うイベントや、天体観測会など、外に出ることにも積極的だ。
【写真】発表にかかわった樹徳高校・理科部のメンバー(前列左右は顧問の先生)
今回のグランドコンテストをはじめ、外部の大会にも意欲的に参加している。発表を念頭に置いた課題研究で、科学技術関係の人材に必要な論理的思考力をつけてもらうのが狙いだ。他の学校の生徒との出会いが、良い刺激になり、子どもたちが人間として成長する良い機会となっている。
研究メンバーの一人、小林亮太くんは中学時代はテニス部で活躍した。理科部に入部したきっかけは友人の樋下田大悟くんに誘われたからだ。その2年生の樋下田大悟くんは樹徳のSSクラスに在籍し、もともと理科系の部活に興味があった。「一人での入部が不安だったんです」と小林くんを誘った理由を笑いながら話す。
大塚かのんさんも樋下田くんに誘われた一人だ。「私は2年生から入部しました。樋下田くんに誘われたときは、あまり興味なかったんですが、あまりにも彼が理科部のことを楽しそうに話すので扉をたたきました」。大塚さんは現在、1年の時から所属する写真部と掛け持ちしている。
| グランドコンテスト
発表は英語で行った。もちろん原稿も部員たちで作り上げた。スライドを作成する際、群馬大学の太田悦郎名誉教授らに加わってもらい、英語の専門用語などの監修をしてもらったという。
こうした真摯な研究姿勢と長期にわたり腰を据えて取り組んだ研究内容が評価され、金賞(全国7位相当)と第一三共賞も受賞した。第一三共賞は生命に関連する内容をテーマにした優秀な研究発表に贈られる。
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専門誌「化学と教育」の中で顧問の広井先生は部活動を通じて「社会に貢献できる科学技術関係人材を育成していきたい」と記している。そして、この広井先生の思いは確かなものとして部員たちに伝わっているようだ。
部長の林くんに将来の夢をたずねてみた。
「自分は大学に入ってもこの研究を続けたいと思っています。大学は繊維学部を目指しています」。
(編集部=峯岸武司)