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【知事取材を終えて】既存の発想を超えた高校再編の視点(3)

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【知事取材を終えて】既存の発想を超えた高校再編の視点(3)

オピニオン

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2022.04.09 
tags:宮城県 公立 共学化, 山本一太 群馬県知事, 桐生高校, 群馬 女子校 共学化, 群馬 男女共学化 別学校, 群馬 男子校 共学化, 群馬 高校 再編, 群馬 高校 男女別学, 群馬県教育委員会, 茨城県教育委員会 中等教育学校

 男女別学率が全国一位の群馬県。時代の趨勢でこの別学率の改善は必須だろう。

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| 別学校を残すという選択

 山本知事はインタビューの中で「一律に一気に共学化してしまうといった乱暴で強引なやりかたではなくて、大きな時代の流れを踏まえつつも、地域の実情も考えながら進めていくという方向性」と述べている。たしかに、伝統校の再編には大きな痛みを伴う。それならば、その痛みをあえて選択する必要があるのかというのが二つ目の提言である。具体的に言うと、男女別学校を残していくというのも選択肢もあるのではないかと言うことだ。

 

| 別学校の共学化を進めた宮城の事例から

 伝統校の共学化が容易ではないことは、先行事例の宮城県を見るとよく分かる。

 1999年、宮城県で浅野知事(当時)がすべての県立高校の共学化を発表した。その当時、知事の発表に対して、地域からの反発が非常に強かった。「宮城には、校名に数字が入った伝統校、いわゆる『ナンバースクール』が多く、共学化には男子校だけでなく、女子校の同窓会からの反発もあった」(弁護士ドットコムニュース/北関東に多い「公立高校の男女別学」は時代錯誤か? 共学化めぐる議論の歴史より)。反対運動は在学生も巻き込んだ「一律共学化反対運動」に発展した。

 同記事によれば、「宮城では、県下トップとされる仙台第二高校(当時は男子校)で、入試の前年に共学化の1年延期が決まり、「女子一期生」を目指していた女子中学生たちが受験先の変更を余儀なくされた」という。 仙台二高は1年遅れの2007年に共学化。宮城県は2010年に全県立高校の共学化を実現した。

 浅野知事の「一律共学化宣言」から約10年もの歳月を要したことになる。

 現在は国際的な流れもあり、公立高校の男女共学化は不可避だという世論も醸成されつつはある。しかしながら、宮城の例からも、別学校の共学化というテーマは地域を巻き込んだ激しい議論が起こる可能性は高い。改革には非常に大きな痛みを伴うことになるだろう。

 ところが、これほどの痛みを伴ったにもかかわらず、宮城県の例で言えば、「旧女子校では、人数の少ない男子が萎縮しないようにとクラス分けに配慮した結果、女子だけの『ジョクラ』ができてしまうこともある」(弁護士ドットコムニュース/北関東に多い「公立高校の男女別学」は時代錯誤か? 共学化めぐる議論の歴史より)という。また、全国を見渡すと、共学校なのに実態は女子校という公立高校も何例か存在する。これでは形だけの共学化で、本来の目的を達成できたとはいいがたい。

 共学化して男女の偏りが生まれるのは、それがある意味で「地元の世論」であり、「別学を望む声もある」と解することもできる。だとしたら、無理に別学化を進める必要はない。そして、同じレベルの高校で共学校か別学校かの選択ができるのだとすれば、SDGsの理念と矛盾するものではないと私は考える。

 

| 別学校の方がリーダーシップが育まれやすい意見も

「全国の中高は共学化すべきか」というテーマで書かれた瀧本ゼミのサイトがある。ここに書かれた論考は男女別学か共学かを考えるにあたり非常に示唆に富んだものだ。現在、サイトの所在が不明なため、筆者がコピーして保存したものを要約引用する。

 桜蔭学園(女子校)の佐々木和枝元校長は「(別学校は)共学校に見られるような、『いつの間にか男と女の役割が分かれ、男は男らしく、女は女らしくを求められる傾向』が存在しない」と指摘している。その結果、男は理系、女は文系というバイアスがかからず、理系の得意な女性が理系に進学しやすい環境にあるという。また、男らしく、女らしくのバイアスがからないため、女子校ではリーダーシップも育まれやすいとの声もある。

 本来は伝統的な男女観のステレオタイプからの解放を狙って共学化が進められているが、共学校の方が従来の男女観のステレオタイプを再生産してしまうという意見もある。

 かつてアメリカでは男女平等の観点から、教育の性差別禁止を目的とした法律を制定し、公立学校は共学化が義務づけられていたが、2006年の法改正により、公立校の男女別学を認めるようになった。

 イギリスの分析ではGSCEという16歳で受験する全国統一試験で、別学校の女子の平均点が、共学校の女子の平均点の1.25倍高かったという報告もある。トリニダードトバゴでの分析によると、成績の低い20の中学校を共学から別学にしたところ、全国統一試験の成績が全国平均の1.14倍まで向上したとの報告もある。

 こうした流れを受けて、共学化の進んだイギリスや韓国では別学のよさが見直されつつあるという。

 別学校には別学校のよさがあり、男女を別々にすることで、伝統的な男女観によるバイアスがかかりにくく、女性のリーダーシップを育みやすいという主旨だ。

 だとすれば、共学化を推進しつつも、男子校・女子校を残すという選択肢の方が学校形態の多様性を維持することにつながるし、結果的に子どもの進路選択の幅を広げることにならないだろうか。

 

| 【私論】前橋・高崎・太田地区の別学校再編案

 群馬の例で言えば、いくつかの別学校はそのまま残しておくというのも方策の一つだろう。それから、共学化するのであれば、たとえば、横浜サイエンスフロンティア高校のように、理系に特化した学校にするなど、大胆な色づけをすることで、学校の「個性」を打ち出していくこともアイデアの一つだと思う。

 太田地区はすでに市立太田高校があり、公立の中高一貫校が存在する。だから、太田高校は理系に特化した学校に再編し、太田女子高校を普通科共学校にするという道もある。人口から考えると、現実的には「桐高モデル」のような両校の統合という形になってしまうのかもしれないが、最終的な着地点がそこだったとしても、様々な可能性を検討する余地はあるだろう。

 

 県央部については、たとえば、高崎高校と高崎女子高校は共学校にし、前橋高校高校、前橋女子高校はそのまま別学校として残しておくというのはどうか。具体的な高校名を挙げることで、感情論を生み出しかねないが、これは「例」であって、共学校にするのは前高・前女でもいい。県央部には中央中等もある。大学進学という観点にしぼれば、中高一貫で学ぶか、公立中から進学校に進むかという従来の選択肢に加え、共学校で学ぶか別学校で学ぶかの選択もできる。LGBTQに対する配慮も十分に可能だ。多様で選択肢のある進路を用意できる。

 もちろん、宮城のように同窓会の意見もあり、在校生の意見もあり、一筋縄にはいかないだろう。前橋・高崎は都市としても拮抗しており、互いにライバル意識が強いエリアだ。それだけに伝統校の再編はより一層難しくなりそうな気配はあるが・・・。

 高架化事業によって駅前の風景が画一化したように、個性や特色に乏しく、金太郎飴のような高校を量産するような「学校再編」にはしてほしくない。山本知事の言葉を借りるとすれば、「再編されたことで地域の人たちを引きつける魅力のある学校」を創る再編であってほしい。

 男女別学率が全国一位の群馬県。時代の趨勢でこの別学率の改善は必須だろう。ただ、繰り返し述べてきたように、一律の「共学化」モデルではない形を模索してほしい。そこには、あえて共学化しないという道も存在するように思う。

 感傷論や感情論でない、丁寧な話し合いの中で、群馬の未来の子どもたちにとっての最善の選択になるような「高校再編」を期待したい。

〈おわり〉

(みんなの学校新聞 編集長 峯岸武司)

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