【知事取材を終えて】既存の発想を超えた高校再編の視点(1)
| 「既存の発想」による高校再編
山本一太群馬県知事の取材を終えて、これからの高校のありかたについて、自分なりに考えてみた。
取材中、知事は「既存の発想ではない視点から(高校再編を)捉えていくことも大切だ」という言葉を口にした。「既存の発想」というのは、ある地域で子どもの人口が減少し、高校数を再編しなければならない事態に直面したとき、たとえば、A高校(男子校)とB高校(女子校)を統廃合して新高校を設立するというやり方だ。
| 桐高人気の背景
昨年4月に誕生した新生・桐生高校もまさに既存のやり方で生まれた新高校だ。
旧・桐生高校は国公立大学の合格者数を100名以上出す県内でも有数の進学校(令和元年度に114名、平成30年度には125名 現役のみ)だった。コンスタントに100名以上の実績を出す高校は群馬県では公立の男女別学校だ。こうした事情もあって、国公立大学の進学を考えた場合、男女別学校を選ぶという選択が一般的だ。それゆえ桐生高校と伝統ある桐生女子高校との統合は地域の注目を集めた。数少ない男女共学の公立進学校になるからだ。
実際、その人気は倍率にも如実に表れた。21年度入試(現高2)では、県教委の実施した進路希望調査(10月)では1.98倍を記録し、後期入試の最終倍率はさすがに落ち着いたものの1.26倍という高倍率だった。22年度(現高1)も同様の傾向が続いた。前高、前女、太高、太女といった別学校の倍率が1.0倍前後だったことと比べると、その人気のほどがうかがえる。
「桐高モデル」が成功すれば、今後、男女別学校の統合は、この方向性で進んでいく可能性が高い。
| 高校再編に「茨城モデル」の視点を
ただ、知事のいう既存の枠組みではない視点を絡ませていくと、「攻め」の再編モデルがあってもいいのではないかと思う。
たとえば、参考になるのは「茨城モデル」だ。茨城県には公立の中等教育学校の並木、古河、併設型の日立第一の4校があったが、「20年度に太田第一、鉾田第一、鹿島、竜ヶ崎第一、下館第一、21年度に水戸第一、土浦第一、勝田、22年度に水海道第一、下妻第一が一貫化され、新たに10校(勝田のみ中等教育学校、そのほかは併設型)を加え、計14校が中高一貫となる」(東洋経済education×ICT/「茨城県、3年で10校も中高一貫校つくる理由」より)。一貫校になる学校には県を代表する進学校も含まれており、かなり大胆な再編と言える。
茨城県教委がここまで大胆に一貫校を増やす理由について、東洋経済の記事では、保護者の側の高いニーズがあること以外に「既存の中高一貫教育校において、探究活動などの6年間の計画的、継続的な取り組みにより、学業だけでなく課題解決能力の育成などにおいて優れた実績が出ている」点を挙げている。
知事取材の中で、頻繁に「始動人」というキーワードが登場した。「始動人」とは自分の頭で考えて人が目指していない領域に一歩踏み出すような人材や付加価値を生み出せるような人材像だ。そして、その始動人を育成するための方策の一つに「STEAM教育」の導入を位置づけている。STEAM教育についての詳細はここでは割愛するが、そのベースには、教科を横断した探究活動と創造活動がある。中高という6年間を継続的に探究活動に費やせる中等教育学校というスタイルは、実は「始動人」の育成と親和性がよい形態だ。
「高校入試に分断されずに一貫したテーマで探究活動に取り組めるのが魅力の一つだ」。かつて中央中等教育学校を取材した折、当時の校長先生が話していたこの言葉はそのことを裏付ける。
現在、県内の公立一貫校は中等教育学校は中央と四ツ葉の2校、併設型一貫校は市立太田の1校の計3校だ。そして、いずれも市外からの広域の通学生を抱えている。吾妻や館林から中央中等に通学している生徒もいると取材で聞いた。
この話を聞いたとき、中学生が電車を利用して1時間以上かけて通学するのは大変だと思った。見方を変えれば、それだけの労力を費やして通う魅力のある学校だということでもある。しかし、一方で長距離通学の負担は決して少なくないだろう。
この実情と高校再編をうまく組み合わせることができないかというのが、私が知事取材を通じて感じたことである。
次稿以降、具体的な提言を述べていきたい。 〈つづく〉
(みんなの学校新聞 編集長 峯岸武司)