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【塾の先生コラム】「合格判定」と『偏差値』(桐生進学教室)

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【塾の先生コラム】「合格判定」と『偏差値』(桐生進学教室)

オピニオン

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2022.06.15 
tags:モギテスト, 偏差値, 前橋高校 偏差値, 塾の先生コラム, 桐生進学教室

そもそも偏差値とはどんな数字か?

 

「前高は五教科の偏差値が40あれば十分に合格します。偏差値が38でも合格が可能です」

 

 これは実際に私の塾で父母面談の時に保護者に伝えている「合否判定」のコトバです。そしてほとんどの保護者の方が「えっ!」と驚きます。

 もちろん、このデータだけで私が受験のGOサインを出すワケがなく、学校で実施された実力テストのデータや中間・期末テストでの点の取り方、塾の普段の授業での反応や理解力、さらには生徒本人の性格や気性など、あらゆるコトを材料にしていわゆる<総合的な判断>をおこない、最終的には保護者と生徒本人がその高校を受験するか否かの決断を下すことになります。

 

 ところで、この数値は『駿台模試』での話です。さすがに一般の「学力テスト」ではいくらなんでも<偏差値40>では前高どころか他の“進学校”への合格さえも危ぶまれます。

 

 しかし“一般の”「学力テスト」でも、前高の合格基準は<偏差値70>ではありません。

 

 そもそも<偏差値>とは『相対的な数値』であることをしっかりと認識しておく必要があります。大原則として、そのテストの「平均点」=<偏差値50>というところから始まって、全体の得点の分布状態=散らばり具合=偏差を“計算式”によって数値化して、その子の得点が他の受験生全体の得点分布と比較してどの位置にあるのかを表したものが、<偏差値>です。

 例えば、ほとんどの生徒が平均点近くの得点のときに一人だけズバ抜けた点を取ると<偏差値>は跳ね上がり、どんなに良い点を取っても他の皆も同じような点を取っている場合には<偏差値>は下がります。つまり、問題のレベルと受験した生徒のレベルとその結果としての平均点などによって<偏差値>は大きく変動するものなのです。

 

 実際に私は、中学生の時に学校で受けた学力テストで数学が85点でも<偏差値80>を取りましたし、英語はたとえ100点でも<偏差値68>がせいぜいのときがほとんどで、テンションは下がり気味でした。そして社会よりも理科の方が100点を取ったときの<偏差値>が高めだったようにも記憶しています。

 でも、もし当時の私が『駿台模試』を受けていたら、おそらく<偏差値50前後>だったと思います。なぜなら『駿台模試』の受験者のほとんどが「日本全国のトップレベルの生徒」で、問題のレベルも「ほとんどが“難問”で一部は“超難問”」だからです。難関大学受験を見越して小中学生の時からこういう勉強をしていないと到底解けるものではありませんし、逆に言えば都市部の小中学生たちは大学受験を意識して“それにふさわしい勉強”をもうすでに始めているということを意味しています。学校の中間・期末対策に躍起になっているどこかの地域とは意識の高さと行動の様式が格段に違っています。時代は異なるとはいえ、前述したように私は△△中学という桐生でも田舎の地域で育ちましたので、当然このような勉強はしていませんでしたし、それ以前にそういう特殊な勉強があることすらまったく知りませんでした。

 

 私が中学生の頃は学校で生徒全員が「モギテスト」を受けていました。学文館という学校法人が主催していた学力テストで、群馬の中学生は同時にほぼ全員が受けて(受けさせられて)いました。<前高は偏差値70>というのは、この頃に学校の先生が受験指導で使っていた数値で、<桐高は偏差値62>で<桐女は偏差値58>が合格の基準でした。“合格の基準”というのは安心して受験ができる、つまり合格率80%のラインを示しています。ですから「合格可能ライン」はそれよりも4ポイントは下になりますので、前高は66、桐高は58、桐女は54ということになります。ただし、受験倍率や入試問題の出題傾向によって合否結果は大きく変わってきますので、これらの数値はあくまでも“目安”にしかなりません。

 

学校実施の「業者テスト」の”怪”

 今から30年ほど前(保護者の方々の多くが中学生だった頃)に、文部科学省の指導により「業者テスト」を公立中学校内で実施することが禁止(自粛要請?)されました(だから学文館のモギテストは廃業に追い込まれました)。そして<偏差値>という文言はいつしか公(おおやけ)では禁句になりました。

 しかし、公立中学校では現在「実力テスト」なるものを実施し、そのテストデータでは<偏差値>の代わりに「標準点」なる数値が記載されています。誰もがみな、この数値を<偏差値>だと認識して志望校選択や受験指導に使っていますが、しかしこの数値の“基”になっているデータは「東毛地区の中学生だけ」なのか「このテストを受けている中学生全体」なのかの根拠が示されていませんし、それ以前にこの学力テスト自体だれが主催者しているのかも明らかにされていません。「校内順位」だけは記載されていますので、あたかもそれぞれの公立中学校が独自に実施しているかのような印象を持たせていますが、テストデータの「書式」と「平均点」は複数の公立中学校でまったく同じものです。もちろん「テスト問題」も。つまりはいつの間にかまた「業者テスト」が復活しているわけです。ならば「標準点」などという意味不明な用語を使わずに堂々と<偏差値>という用語をつかえば良いわけで、さらにはあの『志望校内順位』も復活させてくれればいいと思うわけです。「あなたはこの高校の志望者何人中何番です」と、昔の『学文館モギテスト』みたいに。

 私たちが知りたいのは“今の”前高や太高や桐高の<基準偏差値>であり、さらにはそれぞれの高校への「合格の可能性」です。「あなたの実力」を示す「標準点」なるものを提示されたところで、それは高校入試とは全く無関係で、志望校への合格の不安や安心感とはまったく別の場所に存在しています。いや、だからこそこれは「実力テストであって」、受験を第一目的としたいわゆる「業者テストではない」ということの根拠になっているのでしょう。

 

「業者テスト」の「合格可能性 ●%」は信用できるか?

 そこで、我々のような塾や受験生や保護者が求めている『合否判定』を提供してくれるのが「業者テスト」となるわけですが、ここにも大きな問題があります。

 先ほども念を押すように述べましたが、<偏差値>は問題のレベルや受験した生徒のレベルによって変動する「相対値」であり、高校のランキングや生徒の力量を示すような「絶対値」ではありません。だから、そこからより正確な『合否判定』を導き出すには塾長あるいは受験指導をする先生に分析する技術や経験に基づいた判断力が要求されます。なぜなら「テスト業者」がデータで示す「合否判定」は、<偏差値>とリンクさせただけの単なる“数値”に過ぎないからです。

 

 私の塾での具体的な例を挙げます。塾生は私立中学に通っていましたので、群馬県内の業者が主催する“統一テスト”つまり合否判定の出るタイプのテストを受けていました。

保護者「先生、ウチの子は今回のテストで偏差値が68で前高の合格可能性が70%だったんです。学校の先生も『これでは受からないから希望校を変更するか滑り止めの私立をちゃんと決めておくか、親子で話し合ってください』と言っていました。どうしたらいいでしょう」

塾長「シロウトの言うことは一切気にしないでください。この学校の先生は受験のプロではありません。今回のテストは問題が比較的易しく平均点が高かったので偏差値が伸びなかっただけのことです。この業者もたぶん前高の基準偏差値を70と入力していて何の調整も加えていないので今回のような判定になったのでしょう。こういう単純な仕組みも分からない人間や機械の言うことなど信じてはいけません」

保護者「でも、前高はやっぱり偏差値70じゃないとだめなんじゃないですか。ウチの子、落ちちゃったらどうしましょう」

塾長「そりゃ試験ですから、万が一にも何か不測の事態が起これば不合格になる危険性はありますよ。でも今回のこのデータだけを取ってこの子が『前高が危ない』なんてことは絶対にありません」

保護者「でも、でも、……」

 この親を納得・安心させるのにこれからさらに10分はかかりました。そして、この子は何の心配もなく前高に合格し、その後も前高で1ケタの成績を維持していました。

 

 いよいよここから本題に入ります。

 先にも述べましたが、当時の『学文館モギテスト』は群馬県内の中学3年生ほぼ全員が受験していたために、そのデータはとてもリアルなものでした。

 例えば当時の私のデータでいえば「桐高の定員315人中17番」とか、そしてそれは「前高なら同じ点数でも57番」とかそういうものでした。確か志望校は3校まで書けたような記憶がうっすらと残っていますが、2校だったかもしれません。ただ記憶のどこを辿っても「合格判定」の“可能性何%”にたどり着くことはできません。もっとも、数字が<リアル>なだけにわざわざ可能性を示してくれなくても一目瞭然、自分の志望校への合格可能性くらいは自分で判断することができました。

 だからなのかもしれません、今どきのほとんどの「業者テスト」が「合否判定」を“%”や“A~E”などのアルファベットで表しているのは。つまり、全員が受けているわけではないので<リアル>な数字=『志望校内順位』が出せないわけです。だから「判定基準」を<偏差値>とリンクさせて“リアリティー”を持たせているのだと思われます。

 前者のようにリアルな数字だけを提示された場合は、受験するかしないかの「判断」は自分でおこないます。たとえば強気の生徒は「まだ下に10人いるから大丈夫」とか、一方で弱気な生徒は下にまだ50人いようとも「もう無理ムリむり、落ちたらどうしよう…」とか、その判断はその個人の性格や気性によっても変わってきます。でもそれで良いのです。リスクのない試験など存在しません。リスクのない人生と同じです。そのリスクを体験し、経験とすることで人は成長するのです。

 ところが、後者のように「あなたの合格可能性は○○%です」とか言われると、人生経験も浅く素直な中学生はそれを信じてしまいます。『様々なデータ』を基にした「判定」ならば多少は耳を傾ける価値もありますが、ただ安易に偏差値とリンクさせただけの数字がそこまで判定してよいハズがありません。

 さらに一部の業者テストのデータシートには昔の学文館モギテストのような「志望校内順位」が記載されています。群馬県の中学生は1学年の人数が1万7千人前後に対してこのテストの受検者数が6千人~7千人つまり3分の1強といったところなのに、「志望校内順位」が<“リアル”っぽい数字>になっているのです。この数字が受験生内での『実数』ならば実際の入試ではその順位を2倍以上に増やしてから定員の人数と比べなければいけませんし、『推定順位』であればテストを受けていない生徒が本番の入試には参戦してくるため順位そのものに根拠が無くなり、プロとしての「判定」も格段に難しくなります。

 さらに、現在の群馬県入試は『論述・記述』形式の問題が多く出題されているにもかかわらず、この業者テストでは論述問題はほんの僅かで、むしろ記号問題が多く出題されています。つまり<テストそのものが群馬県入試とは程遠いモノ>になっているのです。こういうテストの<偏差値>がいったいどれほどの信憑性を持っているのか、個人的には疑問視しています。

 

 このように、<前高は偏差値70>というのは、もはや“神話”や“都市伝説”に過ぎません。さもなければ「誰かが意図的に流している“デマ”」もしくは「生徒や保護者あるいは群馬県民がひたすら信じている“幻想”」です。

 

 

 次回のテーマは、「偏差値の操作」と『受験指導』という危険な内容です。

 

プロフィール

丹羽塾長

<現職>

桐生進学教室 塾長

 

<経歴>

群馬県立桐生高等学校 卒業

早稲田大学第一文学部 卒業

全国フランチャイズ学習塾 講師

都内家庭教師派遣センター 講師

首都圏個人経営総合学習塾 講師

首都圏個人経営総合学習塾 主任

首都圏大手進学塾    学年主任

都内個人経営総合学習塾 専任講師

 

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