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【SAH実践報告】SAH指定校で変わる前南の「いま」

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【SAH実践報告】SAH指定校で変わる前南の「いま」

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2024.05.28 
tags:SAH 群馬, 前南 アイス自販機, 前橋南高校, 前橋南高校 SAH

 今年4月8日、前橋南高校の始業式のこの日に、同校の「新入生」が活動をはじめた。「新入生」とは生徒玄関前に置かれた「アイスクリームの自動販売機」だ。3月末に設置され、この日から販売がスタートした。
 飲み物の自販機の置かれた高校はよく見かけるが、嗜好品であるアイスの販売はめずらしい。いったい、どういう経緯でアイスの自動販売機が設置されたのか。この背景を紐(ひも)解くと、前橋南高校の〝今〟が見えてくる。

 

自ら考え、判断し、行動できる生徒の育成を目指してーSAH指定校になる
 同校は昨年、自ら考え、判断し、行動できる生徒の育成を図るモデル実践校として県教委から「SAH(スチューデント・エージェンシー・ハイスクール)」の指定を受けている。
 前例のない取り組みに対して学校全体で模索していた時期、生徒会が企画した「硬式野球部応援活動」が立ち上がった。

【画像】SAH指定校のロゴマーク

「SAHって何だろうねって話し合いをしていた時期、ちょうど夏の甲子園県予選がありました。生徒会と吹奏楽部しか応援に行けないことになっていたのですが、そんな中、硬式野球部があんなに頑張っているのにもっとみんなで応援に行きたいと生徒会が声を挙げました」。生徒会顧問の同校・原澤正樹先生は当時をこう振り返る。結果的にこの活動が「SAHって、こういうことをやっていくことなんじゃないか」(原澤先生)という気づきにつながったという。

 「生徒がやりたいというわがままをただ認めるのがSAHではありません」と原澤先生。実際、「野球部応援活動」では校長、教頭、事務長と交渉が重ねられ、「借り上げバスの手配」「帽子の手配」「応援練習の時間確保の問題」など一つ一つを生徒の手でクリアしていった。
 昨年7月10日に城南球場で行われた初戦には有志の生徒50数名が応援に参加したそうだ。一度差し戻された企画を短期間で実現までこぎつけたことに対し、当時の関根校長は「涙、涙、私は感動している」と同校の発行する「前南SAHジャーナル」(Vol.8)に記している。
 この後も、「校則ルール見直し」や1年生だけの「スキー教室」に2年生も参加する企画など、同校は生徒主体のSAHの実践を重ねてきている。

 

(関連記事)非認知能力の育成に向け 3高校をSAH指定校にー県教委

 

アイスの自販機があったらいいよね!
 同校3年生の関凜音(りおん)さんは「高校は中学と違って飲み物の自販機や購買もあるのに、嗜好品の自販機がなかったので、もしアイスの自販機が導入されたら、もっとよい環境になるのにな」とかねてから友達と話していたそうだ。昨年7月の生徒会役員選挙で副会長に立候補した際、「アイスの自販機の導入に向けた交渉」を公約に掲げた。
「学校って、いろいろな関係性があったり、勉強や部活もハードで生徒も結構しんどい場所だと思うんです。アイスがあれば、ちょっとした幸せがあってうれしい。息抜きになるっていう気持ちがあったんだと思います」と顧問の原澤先生はアイスの自販機導入の企画について理解を示す。
 当選後、関さんは生徒会役員の中で「アイス自販機チーム」を募った。効果的な資料づくりをするためにパソコンに強い八木悠翔くん(2年生)に声をかけた。そして同じく生徒会役員の小此木いろはさんと腰高紗依さんが「やってみたい」と手を挙げてくれた。こうして結成されたチームは10月頃から動き出した。

 

紆余曲折の企画説明プレゼン
 12月、チームは校長、教頭、事務長に対して「前南でのアイスクリーム自動販売機の導入に向けて」の企画説明会を開いた。 導入目的やメリット、運用ルールなどの説明後、 校長・教頭から「なぜアイスクリームの自販機を導入することで前南の魅力度アップにつながるのか」など具体性に欠けている点を指摘された。「設置場所」・「販売価格の設定」・「ゴミ処理」・「業者の選定」などについての事務長からの質問には、具体的に答えることができなかった。「ここの詰めが甘いなどこてんぱんに指摘を受け、下調べの甘さを痛感しました」と小此木さんはこの時のプレゼンを振り返る。

【写真】企画説明会(第1回)の様子

【画像】企画書第1案

(画像引用)「前南SAHジャーナル」より


 このプレゼンの後、さらなる調査が必要だと感じ、再度準備することになった。
 まずチームでは、「民意」をデータで示すため、前南生全体にアンケートを実施。「学校にアイスクリームの自販機があった場合利用したいか」という質問には 83%以上の生徒が賛成している裏付けを得た。企画説明会で指摘された価格、ごみ問題、設置場所など自販機導入についても、詳しい情報を知るため、12月25日に業者と話し合いの場を持った。県内ですでにアイスの自販機を導入していた富岡高校に電話取材を行い、生徒や職員の反応、ルールについて、月間の販売数などの情報を集めた。

【写真】設置場所を検討する生徒たち

【写真】業者と打ち合わせする生徒たち

(画像引用)「前南SAHジャーナル」より


 こうして集めた情報をもとにチームは指摘された課題をどう解決するかを練り直し、1月9日、再度の企画説明会に臨んだ。改善すべき課題がクリアになり、校長・教頭・事務長からの賛同を得ることができた。


【画像】企画説明会(第2回)で使用されたスライド  (画像引用)「前南SAHジャーナル」より


 1月17日には全職員に向けてのプレゼンが行われた。「ごみ問題どうするのとか、本当にルールは守れるのとかいろいろ指摘されました。その声を聞いて、どうすればうまく運用できるかということをさらに考えることができました」と関さんは振り返る。
「大分職員から厳しい声もあがりました。生徒が本当にルールを守れるのかなど、正直、否定的な声もあがりました。生徒も苦い思いも経験したと思います。でも、導入がゴールではなく、導入した後からが本当の学びの場であることを感じてくれたはずです」と原澤先生。

 

「アイスの自販機」の先にあるもの
 こうして前南のアイスの自販機は「入学許可」され、3月下旬に校内に設置された。心配された運用のルールも「今のところしっかり守られています」と生徒会長・荒木皓陽くん(3年生)。荒木くん自身も部活後にアイスを購入した。「ゴミ箱がいっぱいになっているのを見て、売れていてよかったなと思ったりします」と笑顔で話す。 

【写真】前橋南高校の生徒会役員(同校アイスの自販機の前で)

 

 赴任してから8年目を迎える原澤先生は、SAHの取り組みを始めてから前南生の空気の変化を感じている。赴任した当時の生徒はおとなしく、消極的であまり覇気がない印象だった。SAHが導入されてから、「生徒もチャレンジすれば実現できるんだと達成感を味わえるようになり、喜びにつながっているように感じます」と話す。「今年入学したばかりの1年生はSAHが魅力的で前南に入りましたという子も多いと聞いています」とSAHの取り組みへの期待感を語ってくれた。

 群馬県では非認知能力の育成が結果的に社会の幸福度(ウェルビーイング)を高め、よりよい社会の実現につながっていくというビジョンを掲げ、教育政策の柱の一つに据えた。SAHの取り組みを踏まえ、今後「群馬モデル」を確立したい考えだ。

(編集部)

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