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【私小説】Nの青春<第5章> その3

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【私小説】Nの青春<第5章> その3

文化

みんなの学校新聞編集局 
投稿日:2023.11.17 
tags:桐生進学教室, N君の青春

第5章

 

何を着るかは、世界に向かって自分をどう表現するかということよ。 」

        What you wear is how you present yourself to the world .

                        ~ ミウッチャ・プラダ ~

その2を読む)

「サラシって、あの、ヤ○○が体に巻いているヤツ?」と怪訝そうにNが尋ねると、祖母は何食わぬ顔で「そうだよ、腹巻とどっちがいい?」と返してきた。もちろんNは「サラシ」を選んだ。巻き方は祖母が丁寧に教えてくれた。

 祖母は和裁が得意だったのでその素材だったからなのか、たまたまなのか、家にはサラシが仕舞ってあった。そして、Nのお腹は保たれた。

しかし、毎日学校に巻いて行くので洗濯が追いつかなくなった。そこで新しいサラシを買う必要が出てきたので、Nは学校帰りに市内のデパートに寄った。和服を扱っているコーナーで店員さんに尋ねた。

 

 

「サラシが欲しいのですが、こちらのお店に置いてありますか」

「サラシですか…。申し訳ありませんがウチの店では扱っておりません」

「え、私の祖母は和裁をしているのですが、持っていましたよ」

「そうですか。あ、もしかしたらあちらの店で扱っているかもしれません。ちょっと一緒に来ていただけますか」

「はい」

「こちらのお客様がサラシをご所望なのですが、こちらのお店では扱っていらっしゃいますか」

「はい。ございますよ」

「よかったですね、お客様。それでは私はこれで失礼いたします」

 

 紹介された方の店員さんがNの学制服姿を上から下まで一通り眺めてから、「お若いお父さんなのですね。こちらへどうぞ」と、案内してくれたのは“おしめ”のコーナーだった。まだ当時は「紙おむつ」は一般化しておらず、もっぱら赤ちゃんの「オムツ」は『布おむつ』だった。つまり「サラシ」は『和服』ではなく『ベビー用品』だったのだ。

 その店員さんと一緒に「ベビー用品」の代金を払うためのレジに向かいながらNはこんなことを考えていた。

 <ってことは、ヤ○○さんもベビーコーナーに足を運んでいるワケか。いったいどんな顔をして買い物をしているんだろう> と。

 

 Nの「サラシ」はNにとっては下着の一部に過ぎなかったので、体育の水泳の前の着替えの時にも別段隠す必要もなく、普通に他の生徒の前で晒して着替えていた。もちろん“異質な”その下着にクラスメイトの多くが一瞬怪訝そうな顔をしたが、事情を説明したら皆何なく受け入れてくれた。当時のK高は生徒の身なりや服装には寛大で、さすがに未だ茶髪は流行っていなかったので誰も髪を染めてはいなかったが、「ベルバラのフランソワ」のように『縦ロール』の生徒(もちろん男子)もいれば『リーゼント』や『オールバック』や『角刈り』の生徒も大勢いた。また、ワイシャツも「襟とボタンが付いていればよい」ということで白だけでなくカラーワイシャツもポロシャツも認められていたし、ズボンの方も黒の学生ズボンだけでなく色が黒か紺であればチノパンでの通学も認められていた。

 だから、Nが「サラシ」を巻いて通学していたところで誰も何の関心も持たなかった。ただ一人、「うなぎ屋の息子のI」を除いて。

 (つづく)

 

プロフィール

丹羽塾長

<現職>

桐生進学教室 塾長

 

<経歴>

群馬県立桐生高等学校 卒業

早稲田大学第一文学部 卒業

全国フランチャイズ学習塾 講師

都内家庭教師派遣センター 講師

首都圏個人経営総合学習塾 講師

首都圏個人経営総合学習塾 主任

首都圏大手進学塾    学年主任

都内個人経営総合学習塾 専任講師

 

 

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